広がる多胎児家庭への支援 国も本年度初めて予算計上 地域ごとの取り組み格差が課題

 同時に2人以上の妊娠と出産、育児を担う「多胎育児」。約1%の母親が直面する。体と心への負担は大きく、外出しにくいことなどで孤立しやすいとも指摘される。ただ当事者の困難さは十分に周知されてはおらず、支援も一部の自治体や民間団体にとどまっている。こうした中、国も本年度初めて、多胎育児に特化した予算をつけるなど、寄り添う動きが広がり始めた。
図解 子どもの月齢・年齢ごとに多胎育児家庭が感じる困難

眠ったらもう一人が泣き出して…授乳だけで1日が終わっていく

 「同時に泣いても一人しか抱っこできない。自分を責めてしまい、あやしながら泣いていました」。1歳半の双子女児を育てる青森市の教員、山谷詠美子さん(33)は乳児期を振り返る。 

 産後3カ月は県内の実家で過ごし、夫とも協力して育児を始めた。だが双子の赤ちゃん育児は想像以上にハード。最も大変だった一つは母乳とミルクを併用した頻繁な授乳。母乳をあげつつ、お湯を沸かして粉ミルクを溶き、適温に冷ましてから飲ませる。1人が眠ったと思ったら2人目が泣きだす。授乳だけで1日が終わっていくようだった。

 2人同時に感染性胃腸炎にかかった時は、1日最悪20回ほどの下痢が1人は1週間、もう1人は3週間続いた。各自午前と午後に分けて受診。その合間に洗濯に追われ、憔悴(しょうすい)しきった。今は歩けるようになったが、大人が2人いないと公園で遊ばせられない。「物理的に手を貸してもらえたり、安心感が得られるような支援がもっと増えてほしい」

孤立しがちな多胎育児、虐待死の件数は2.5~4倍 支援が必要

 多胎育児家庭への支援の必要性を訴える声が一段と高まったのは、愛知県豊田市で2018年1月、11カ月の三つ子の母親が子の1人を死亡させた事件だ。日本多胎支援協会の報告書によると、多胎育児家庭の虐待死は単胎家庭の2.5~4倍あるという。

 低体重での出産、子ども同士の発達の違い、経済的な負担の大きさ…。多胎育児特有の困難さは少なくない。「大変さのあまり助けてもらうことをあきらめ、孤立を深める家庭も多い。つらさを共感してもらえる場が大切」。多胎育児を支援するNPO法人つなげる(兵庫県尼崎市)の代表理事の中原美智子さん(49)はこう指摘する。

 同NPOが運営するLINEのオープンチャット「ふたごのへや」には、全国の当事者ら600人が登録。つらさが分かる当事者同士、相談や助言、ちょっとしたおしゃべりを自由に書き込むことができると好評だ。

 多胎育児の経験者で同NPOの研修を受けた「ピアサポーター」が相談に乗る仕組みも。1歳8カ月の双子男児を育てる東京都杉並区の会社員、松本彩乃さん(35)は「ピアサポーターの言葉に救われた。いつでも受け入れてもらえる場所があるのは心強い」と話す。

厚労省が初めて「多胎妊産婦への支援」訪問型事業などで補助 

 厚生労働省は本年度、産前・産後サポート事業の中に初めて「多胎妊産婦への支援」を盛り込んだ。自治体が当事者の交流会や、外出補助などの支援者を派遣する訪問型事業を行う場合、2分の1を補助する。

 日本多胎支援協会代表理事の布施晴美・十文字学園女子大教授は「虐待や母親の産後うつのリスクを減らすためにも、国が多胎育児に特化した予算をつけたことは意義がある」と評価。「どの地域で暮らしても必要な支援が受けられるようにすべきだ」と指摘する。

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