教員による嫌がらせや暴言を見聞きしたことは? 遺族団体が実態調査へ 「不適切指導」で子どもが死を選ばないために

西田直晃 (2025年5月26日付 東京新聞朝刊)
 児童生徒に対する教員の嫌がらせや暴言などの不適切指導を巡り、これらに起因する「指導死」の根絶を訴える遺族でつくる「安全な生徒指導を考える会」が協力校への独自のアンケートを始める。これまでの要請活動により、政府に全国の教員の処分件数を公表させるなど成果を上げてきたが、遺族からは「氷山の一角」という声が上がる。健全な教育環境の確保には何が必要なのか。
写真 指導氏遺族の女性

不適切指導の調査の意義を語る指導死遺族の女性=5月21日、国会で

処分相当の不適切指導は2000人超

 「指導死は大人たちが変われば防げる死だ」

 5月21日に国会内で開かれた集会で、2013年に部活顧問の激しい叱責(しっせき)の翌日に高校生だった弟が自殺した30代の女性は強調した。考える会の共同代表を務め、同様に指導死で家族を亡くした保護者4人とマイクを握った。

 国内全体では減少しているのに対し、昨年の小中高生の自殺者は529人と過去最多を更新した。21年に発足した考える会の要望などを受け、文部科学省は22年度に教員の手引書となる「生徒指導提要」に不適切指導の7つの例を掲載し、児童生徒の自殺に関する調査に「体罰・不適切指導」という項目を追加。22年度は2人、23年度は1人と発表した。全国の小中高校の教員の処分件数も公表し、23年度には処分相当の不適切指導を2102人が受けたと判明している。

 だが、自治体の3割が不適切指導の処分基準を未策定という。遺族は「処分対象から外れた不適切指導はカウントされていない」と主張し、「重大事態として調査されるいじめと違い、不適切指導が不登校や自殺未遂につながっても直接的には分からず、子どもたちへのアンケートもほとんど行われていない。処分事案では、教員の申告率は10%程度にとどまり、約半数が保護者の相談で発覚した」と問題提起する。

 こうした課題にメスを入れるため、考える会は独自調査を決めた。自治体や専門家と協力し、不適切指導を見聞きした経験の有無などについて、数千人の子どもと教職員に無記名式のアンケートに答えてもらう。回答を分析し、類型や起こりやすい状況を整理する。教職員のストレスとの相関関係を把握するため、職場の人間関係や労働環境なども調べるという。開始時期は未定だが、すでに約束を取り付けた自治体もあり、1~2年後の公表を視野に入れる。「この調査が苦しむ子どもの生きる希望につながってほしい」と冒頭の女性は話した。

ガツンと言えば効く、は「錯覚」

 不適切指導の根絶には何が求められるのか。

 10代の問題に詳しい精神科医の松本俊彦氏は「子どもは大人に比べ、生き方を選ぶための情報が少ない。高校1年、2年ごろまでは学校が世界のすべてだ」と前置きし、「死を考えるほどのネガティブな出来事に遭遇したら、決意し、行動に移すまでの時間が短い。数十分、数時間程度と言われている」と説明。「子どもがSOSを出す自助努力に頼りすぎず、大人がSOSの受け止め方を学べる教育が必要だ」と述べる。

 子ども・青少年育成支援協会代表理事で、臨床心理士の村中直人氏は「不適切指導の多くは悪意によるものではなく、教員の偽りの成功体験や勘違いで起きてしまう。優しく接しても話を聞かないとき、ガツンと言えば、すぐ行動に移すような場合がある。有効というのは錯覚。自尊感情を低下させ、考える力を奪い、服従する無力な状態にさせているだけだ」と話す。

 「規範を決める立場の教員は児童生徒に対しては圧倒的な権力者。両者の権力関係を緩やかにし、外部の目も届く開かれた学校にするために仕組みを変える必要がある。教員個人の意識改革だけでは根本的な解決は望めないだろう」

元記事:東京新聞デジタル 2025年5月26日

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  • 匿名 says:

    西田さんには「子供(と保護者)の暴言暴力で追い詰められている教師」についても取材して記事を上げて欲しい。そうでなければフェアじゃないよね。

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