コロナ禍でわかった「NPOへの公的支援が足りない」 越谷でフリースクール存続危機…理事長の訴え「行政の隙間を埋めているのに」

近藤統義 (2020年6月19日付 東京新聞朝刊)
 新型コロナウイルスの感染拡大は、不登校の子どもを支えるフリースクールにも打撃を与えた。今年で開設30周年を迎えた「りんごの木」(埼玉県越谷市)は、長期の休業で収入が激減。運営するNPO法人「越谷らるご」理事長の鎌倉賢哉さん(46)は、存続の危機に直面しながら、居場所としての役割を再認識したという。コロナ禍の経験から見えたものは。
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「この場所を開けている意味をコロナ禍で考えさせられた」と話す鎌倉さん=埼玉県越谷市で

運転資金に難渋「丁寧な支援がないとつぶれる」

 3月初めから休業を余儀なくされた。

 小学生から20代まで約40人が通っていたが、5月末まで活動がほぼ止まった。子どもは家で過ごすのに比較的慣れているので、一番の心配は運営面だった。利用者の保護者には4月に「後日、返金するので、会費をいったん納入していただけませんか」とお願いし、運転資金を確保した。会費と寄付金でぎりぎりの運営を前提にしてきた基盤の弱さを痛感した。

 -公的支援は。

 スタッフ2人の雇用調整助成金は支給される。だが、法人全体としては埼玉県から委託された相談事業などの収入に大きな落ち込みがないため、国の持続化給付金は申請できない。中小企業への県の支援金もNPOは対象外で、後になって設けられた10万円の助成金だけだ。行政の隙間を埋めるサービスを担うNPOは多いのに、優先順位の低さが浮き彫りになった。もう少し丁寧な支援がないと、すぐにつぶれてしまう。

 支えになったのは、日頃の活動で生まれたつながりの強さだった。保護者からは会費の先払いや返金の辞退の申し出があり、「心のよりどころです」など多くの応援メッセージも寄せられた。

根付いていた「居場所」 学力より生活の豊かさ

 -休みの間、子どもたちとの関わりは。

 4月からオンラインの交流会を何度か開いた。うちに毎日通っていても、参加しない子もいた。やはり直接顔を合わせて一緒に過ごすのが子どもにとっては大事で、「りんごの木」という居場所に根付いていると気付かされた。再開後も、まるで昨日までずっと来ていたかのように自然体だった。何のためにこの場所を開けているのか、原点を振り返る期間になった。

 -休校明けの学校は授業のペースが上がり、子どものストレスが懸念される。

 うちに見学に来た子が、学校がある時は帰宅すると家で暴れていたが、休校になったら落ち着いた、と話していた。長期に学校がなかったことで、ほかの選択肢を探してもいいと気付いたようだった。

 いま大人たちから聞こえてくるのは学力の話ばかり。子どもの学校生活をどう豊かにするのか、その視点が欠けている。学力信仰が根本的に改められなければ、不登校はますます増えるのではないか。コロナ禍をきっかけに立ち止まって学校の意味を問い直すべきだ。

鎌倉賢哉(かまくら・けんや)

 名古屋市出身。埼玉大卒業後、教員免許を取得。2004年にりんごの木のスタッフとなり、運営するNPO法人「越谷らるご」で2017年から理事長。「自分のことは自分で決める」のがりんごの木のルールで、利用者は勉強や遊びなど自由な時間を過ごしている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年6月19日

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