子どもの手術でロボットが活躍する? 「まだまだ発展途上」には特有の事情が…

胆道拡張症の子どもに対し、ダビンチSPを使って行われた世界初の手術(いずれも藤田医科大提供)
切開する範囲が狭く、回復も早い
昨年12月、藤田医科大病院(愛知県豊明市)で、胆道拡張症の7歳の女の子に対するロボット支援手術が行われた。
膵液(すいえき)が流れる膵管と胆汁が流れる胆管の合流部分に異常があり、腹痛などを起こす先天性の病気。がんになるリスクも高く、治すには胆管などを切除する手術が必要だ。開腹や腹腔(ふくくう)鏡でも行われるが、今回は米国製の最新ロボット「ダビンチSP」を使った。
ロボットによる手術は、医師が離れた場所に座り、患部の映像を見ながら遠隔操作する。ロボットの先端に付いた手術器具の鉗子(かんし)やカメラは医師の手の動きに合わせて動く。腹腔鏡と同様、体に開けた小さな穴から器具を入れるが、手で直接動かす腹腔鏡に比べ、ロボットは手ぶれを抑えた動きができ、精度も高い。
中でもSPは鉗子やカメラが1本のアームにまとまっており、体が小さな子どもでもアーム同士がぶつからず操作しやすい。切開部も少なくて済み、今回はへそに3センチ、その横に別の器具を入れる5ミリの傷で済んだ。回復も早く、女の子は1週間後に退院した。
胆道拡張症のロボット手術はダビンチの従来機種では実績があるが、SPでは世界初。執刀した同大先端ロボット・内視鏡手術学講座の宇山一朗教授は「SPは狭いスペースで精密な操作ができる。小さな子どもの手術で威力を発揮する可能性を示せた」と話す。

手術を受けた女の子の2週間後の腹部
導入は小児外科で全国10施設ほど
一方、背景には「小児領域でのロボット手術はまだまだ発展途上」(宇山教授)という課題もある。
ロボットは成人を想定して造られており、体の小さな子どもに使うには、高度な技術や準備が必要。執刀できる医師は限られる。
少子化で患者が減る中、初期費用で数億円かかるロボットを小児外科だけで購入、維持するのは難しい。現在、小児外科でロボット手術を行うのは全国10施設程度。小児専門病院での導入はない。保険適用される病気が数種類にとどまることも足かせになっている。
同大小児外科学の井上幹大教授は「ロボットの普及は小児外科医のレベルアップのためにも重要」と強調する。少子化で手術の件数が少なくなり、経験を積むのに時間がかかるという。ロボット手術は腹腔鏡に比べ、技術習得までの時間が短くて済み、広がりに期待を寄せる。
国産ロボット「ヒノトリ」で広がる選択肢
少しずつだが、ロボットの活用は進んでいる。昨年10月には神戸大病院で、国産ロボット「ヒノトリ」による小児の手術が初めて行われた。執刀した同大小児外科の大片祐一特命准教授は「小児の手術に日本製ロボットという新たな選択肢を増やせた」と成果を語る。
ヒノトリはアームがコンパクトで、子どもの手術に適している。さらに開発企業が国内だからこそ、術前のシミュレーションや術後の課題の共有を綿密にできたという。大片さんは「海外製だけでは機器の安定供給にリスクもある。ロボットにはそれぞれの強みがあり、選択肢を広げることが大事。小児の手術でのロボット活用を当たり前にしていきたい」と話す。
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