今こそ本気で子どもと遊ぼう 楽しさの共有が生きる希望になる 富山「子ども遊ばせ隊」代表の提言

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、子どもの遊ぶ機会が失われていることに不安を感じている家庭は多いと思います。記者もその一人。モヤモヤした気持ちを抱えていたところ、6、7年前に富山県で勤務していたときに取材で出会った「富山・イタズラ村・子ども遊ばせ隊」(富山市)の早川たかし(本名・隆志)代表(69)が電話をくれました。子育てで大切なことをたくさん教わってきた方ですが、緊急事態の今こそ「大人が積極的に子どもと遊ぶ必要がある」と訴える早川さんのアドバイスを読者の皆さんとも共有できたらと考え、その提言を伝えます。

真面目な子どもは忖度して「自粛」してしまう

 学校の臨時休校や外出自粛が続く中で、子どもたちは友人と会えなくなり、遊び場の利用も制限されています。家の前で縄跳びしたら、近所の人に「家にいなさい」と注意された、といった声も聞きました。子どもが遊ぶことへの視線が冷たいと感じます。

 大人の不安や恐怖を敏感に感じ取り、心身共に緊張する子も少なくありません。「こんなときに遊んでいいの?」と、親の気持ちを忖度し、真面目に「自粛」する子もいるでしょう。

 おもちゃやタブレット端末を渡し、テレビを見せるだけ、という家庭もあるでしょう。でも、環境を整えて見守るだけでは、子どもは安心できません。大事なのは親が一緒に遊ぶこと。1日に30分でも、10分でもいい。「遊んであげる」ではなく、本気で遊んでください。

他愛ない遊びでも「ここにいていい」と思える

 他愛のない遊びでいいのです。例えば、私がよく使うのが大道芸で使われる皿回し。持ち運びが便利で自宅でできますし、練習すればすぐ回せるので、取り組みやすいです。大人が皿を回すと、子どもは「かっこいい」と見直し、子どもも回せると、目を輝かせます。一人でするより、喜びは何倍にも膨れ、自信になります。親子の信頼関係も強まります。

 皿回しの道具がなくても、けん玉やカードゲームでも、何でもいい。一緒に遊ぶ楽しさを共有できる関係が築ければ、洗濯物をたたむついでにタオルを積み上げるのも、床をぴかぴかに磨くのも遊びになります。自然と甘えが生まれ、「ここにいてもいい」と思える。「まだまだ大丈夫」と困難を一緒に乗り越える連帯感も生まれます。

一家心中を「友達と遊ぶから」と止めた子ども

 富山大で講師をしたとき、ある男子学生が一家で心中しそうになった経験をリポートにしました。母親に「一緒に死のう」と言われたけれど、幼かった彼はとっさに「友達と遊ぶから死ねない」と叫んだそうです。「あしたも遊びたい」という思いがなければ、「自分も家族も死んでいたかも」と彼は振り返りました。

 子どもにとって遊ぶことは、今を生きることを肯定し、「明日も生きたい」と希望を持つこと。子どもの存在そのものです。それ以外の何物でもない。子どもには遊びこそが必要で、そのために大人は奔走すべきです。

大人の苦悩も浄化する「遊び」を守ってほしい

 遊びは大人にも重要です。私が開いてきた皿回しのワークショップで、最初はばかにしていた大人も、失敗を繰り返し回せるようになると、「ウォー」「オレにもできた」と声を上げて感動します。遊びがもたらす感情の変化が子ども時代を思い出させ、大人の苦悩を浄化するのです。

 不安が増す緊急事態にこそ遊びが必要なのに、疎んじられ、奪われています。せめて家庭だけでも、知恵を絞って考え、遊びを守るとりでになってほしい。遊んでばかりいてください。

 早川さんは今の状況に対する緊急提言を「富山・イタズラ村・子ども遊ばせ隊」のホームページで公開しています。

早川たかし

 1951年、富山市生まれ。特別支援学校教諭として障害児教育に携わるかたわら、1983年に古民家を改修した遊び場「子どもイタズラ村」を同市の山里に開設。2004年に退職し、子どもの遊び環境を再生するNPO法人「富山・イタズラ村・子ども遊ばせ隊」を立ち上げた。NPOは2018年に閉じ、任意団体となったが、大道芸の皿回しを取り入れたユニークな講演活動を全国各地で続けている。著書に「子どもイタズラ村づくり」など。

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  • 匿名 says:

    福井県の小学校からです。養護教諭です。4月に学校をかわり、また新たな保健室登校児との出会いがありました。担任の先生や管理職の先生の手前、早川先生の言っておられる遊びからつながるものを信じていながらに、ここ1ヶ月、その遊び力にふたをしてきました。でもやはり遊び力が本当に有効だと知っている私は、遊びを通してその子とかかわることを決めました♪一緒に遊んだときの子どもの表情、子どもの歓声、やっぱりこれだ!と確信しています。先生に出会えたからこそのかかわりです。ありがとうございます♪

      
  • 匿名 says:

    熊本のひまわり幼稚園からです。新型コロナで自粛中ですが、子供達が外に出られず家でテレビやスマホなどに漬かっていると思うと、とても悲しく早く終息して欲しいと願っております。
    しかし、長丁場になりそうですので早川先生の皿回しを思い付き、全園児にプレゼントしました。品物は幼稚園の玄関にてドライブスルーで受け取って頂きました。
    多分、今頃は全家庭で親子共々ニコニコ顔で挑戦中だと思います。自粛解除になったら、園で「皿回し大会」を開催する予定です。

      

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