〈ゲーム障害との闘い・中〉”廃人”でも「神」になれる 発達障害の僕が見つけた居場所

臼井康兆 (2019年6月9日付 東京新聞朝刊)

子どもとデジタルライフ

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木村亮平さん(仮名)の右手首は、ゲームで長年酷使したせいで瘤ができている=神奈川県内で(一部画像処理)

ゲームに酷使した手のこぶ 「僕の勲章」

 大きさは、サクランボの実くらい。木村亮平(27)=仮名、神奈川県=の右手首には瘤(こぶ)がある。

 医学的には「ガングリオン」と呼ばれる。亮平の場合は、世界で350万人が登録するオンラインゲームで、国内2位になるまで手を酷使した結果だ。

 「僕の勲章です」。色白の手首を見せながら、亮平は言った。


<前回はこちら>優しかった息子が「ゲームに触ったら殺す」 母の苦悩「毎日が地獄です」


 お気に入りは、自分の選んだキャラクターが敵を次々に倒し、それに伴ってキャラクターのレベルが上がるロールプレーイングゲーム。中学1年で始め、高校時代は1日に20時間も没頭した。食事は2日に1度。20代前半の2年間は一歩も外出しなかった。

 「ゲーム依存は社会で『廃人』扱い。でも、僕はゲーム仲間から『廃神』と尊敬されている」

人一倍の集中力 発達障害を併せ持つ人も     

 亮平は東北地方の山あいに生まれた。父親を早くに亡くし、母親は早朝から深夜まで働きに出ていた。幼い頃から、ゲームが遊び相手だった。

 勉強も運動も苦手で、11人の同級生中、いつも10番か11番。忘れ物も多く、「集中していない」と毎日のように教師に殴られ、母親にぶたれた。

 高校を出て建築の仕事に就いたが「物覚えが悪い」と殴られ、長続きしなかった。身を寄せた兄の家からも追い出された。

 自分が発達障害だと知ったのは最近のことだ。

 複数の医療関係者によると、ゲーム障害の患者の中には発達障害を併せ持っている人がいる。興味のある事柄には人一倍の集中力を発揮する一方、読み書きや計算など特定の不得意分野があったり、対人関係が苦手だったりする。このため、周囲の理解が何より大切だとされる。

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禁断症状 体の震えが止まらず「殺す」

 ゲーム障害の治療のため、病院を訪れたのは2年前。ゲームをやめた禁断症状で体の震えが止まらず、「これ以上、禁止するなら全員殺してやる」と叫んでいた。夜は、自分が殺される悪夢にうなされた。

 「僕は現実の世界で誰からも必要とされていない」「つらいことばかりなのに、どうして生きなければいけないの」

 両手で自分の首を強く絞め、何度も自殺しようとした。でも、死にきれなかった。

 それは、ゲームがあったから。

 全国2位の亮平を慕い、やりとりを交わしてくれるプレーヤーが500人もいる。ゲームのこつ。励ましの言葉…。もちろん話題はゲームが中心だが、うそ偽りのない近況、心の内を語り合う相手もいる。

現実世界では得られなかった安らぎ

 現実の世界で縁遠かった人の愛情。それを実感し、安らげる唯一の場だ。「僕は仲間のために生きればいい」。そう決めた。

 今、亮平は一人暮らしをしながら、就職を目指して行政の就労支援サービスを受けている。ゲームをする時間は少しずつ減らし、1日に2、3時間だが、仲間とのチャットや電話は欠かさない。

 病院では「ゲーム以外に夢中になれるものを見つけよう」と助言を受ける。

 「見つけたいです。僕を裏切らない何かを」(文中敬称略)

続きはこちら↓
〈ゲーム障害との闘い・下〉WHOが依存症に認定 「孤立の病」…親は”批判者”になってはいけない

発達障害とは

 自閉症やアスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害、学習障害などの総称。他人とのコミュニケーションが苦手だったり、興味の偏りがみられたり、落ち着きのなさや不注意さが目立ったり、読み書きや計算など特定の分野だけが不得意だったりと、症状は多様。能力を生かして社会的に成功している人も多いとされ、厚生労働省はサイトで「生まれつきの特性で、病気とは異なります」と紹介。周囲の理解や、本人に合った環境が重要だとされる。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年6月9日

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