〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.9 『シャザム!』「ニセ家族」の罵声に心臓が止まりそうになる

古泉智浩「里親映画の世界」

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採点表

vol.9『シャザム!』(2019年 アメリカ/14歳男/グループホーム)

 アメコミスーパーヒーロー映画にも里親映画はあります。『スーパーマン』はクリプトン星人の赤ん坊をアメリカ人の両親がだだっ広い農場で拾って我が子として育てる里親映画です。昔話で言えば、『桃太郎』『竹取物語』も里親話で、人類普遍のテーマなのかもしれません。さて、ただ今上映中のアメコミスーパーヒーロー映画『シャザム!』も里親映画で、しかも傑作だったのでさっそく紹介いたします。

 この物語の舞台はペンシルベニア州フィラデルフィアのグループホームです。グループホームとは、里親夫婦が複数の里子を養育する施設。施設と言っても普通の民家です。主人公の14歳のビリー(アッシャー・エンジェル)はいろいろな里親の元を逃げ出す問題児ですが、実の母親を捜して各地を放浪していました。ビリーは警察に捕まり、このグループホームを紹介されます。ビリーの他に5人の少年少女が暮らしています。ビクター(クーパー・アンドリュース)とローザ(マルタ・ミランス)の里親夫婦は、楽しくやろうと快くビリーを迎えます。彼らは自動車のバンパーに「俺は里親だ、君のスーパーパワーは何かい?」とステッカーを貼っています。

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 僕は空気を読まないので、うっかり実名で里親本を出すなどの行動をしてしまったのですが、日本で里親は割と日陰の存在です。守秘義務があり、子どもの顔をSNSやブログで発表してはいけないことになっています。なので、ビクターとローザの胸を張った感じには驚きました。実は僕のスーパーパワーも里親です。子どもにすごい力をもらって去年はフルマラソンを完走し、風邪を引いても寝込まなくなりました。ビクターとローザ自身も里子として育ち、大人になって里親活動をしています。

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 グループホームで同室のフレディ(ジャック・ディラン・グレイザー)は、ビリーと同年齢で、足に障害があり杖を突いて登校します。彼は言います。「みんな僕を見ようとしない。足が悪くて里子だからだ」。フレディの事を積極的にからかう悪い男子もいます。彼らがフレディやビリー、一緒に暮らす家族に「ニセ家族」と罵声を浴びせた時、その言葉が僕の心に突き刺さり、心臓が止まりそうになりました。それと同時に怒りが沸き上がり、リンチに遭っているフレディをビリーが助け、彼らに一発かました時は「ビリーよくやった!」とテンションが上がりました。

 ビリーはグループホームでも家族に壁を作り、食事の前にみんなで手を合わせる儀式にも参加しません。しかし、同室のそれほど仲がいいわけでもないフレディがやられている時は、相手が自分より体が大きくて人数が多くても立ち向かう勇敢な少年です。ただ単に後先考えないだけかもしれませんが。

 そんなビリーがある日、魔術師に認められてシャザムというスーパーヒーローになります。シャザムに変身すると14歳のビリーが30歳くらいのムキムキのおじさん(ザッカリー・リーヴァイ)になります。姿かたちが全く似ていなくて誰なのか分かりません。シャザムは指から電気を発したり、素早く動いたりできますが、他に何ができるのか分からずフレディと検証します。フレディはスーパーヒーローマニアだったのです。フレディは相当ないたずらっ子なので、ビリーを箱に入れて火をつけたりしてその様子を動画に録ってYouTubeに投稿したりもします。

 そうこうしているうちに、ビリーの能力を狙う敵のドクター・シヴァナ(マーク・ストロング)が現れビリーがピンチを迎えます。この映画を見ていて一番ハラハラしたのは敵のドクター・シヴァナがビリーたちの自宅を訪れた場面です。アメコミヒーロー映画の巨大な力を持った敵にとって一般民家の破壊は、丸めた鼻くそを指で飛ばすも同然のたやすい行為です。あの慎ましくて温かくてビクターとローザの思いがこもったすてきなグループホームが壊されたらどうしよう…。幸い、家族の顔写真が張られたクリスマスのリースを床に落とされただけで済んだのですが、心底、「あの家を壊さないでほしい」と願いました。映画を見ていてここまで強く思いを抱くことはめったにありません。

 「兄妹」と協力して敵と戦うビリー。果たしてビリーは彼らと家族になれるのでしょうか? そして、さらにとんでもない展開が訪れるのですが、それは見てのお楽しみ。ぜひ映画館でご覧ください!

 里親のビクターとローザが、ビリーの問題行動にも心を痛めながらも、温かく見守ろうとしているところも、非常にグッとくる里親映画でした。もうちょっとビクターとローザの場面が見たかった。でも、ゲームをやりすぎていたり、太りすぎていたり、皮肉屋だったり、ハグ魔だったりする里子たちのそれぞれが、心のピュアな部分を失わずに生活をしていて、ビクターとローザの家がすてきな環境であることが伝わりました。僕も老後はグループホームの運営をするのが夢です。

◇予告編

『シャザム!』日本版公式サイトはこちら
2019年4月19日(金)全国公開

ポスター写真

 ©2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
配給 ワーナー・ブラザース映画

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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