保育士不足の記事に反響「低い給料で過酷労働」「やりがい搾取」「社会が保育士を虐待している」

藤原啓嗣 (2023年1月20日付 東京新聞朝刊)

保育士女性が使用したセルフチェックリスト。自身の行動を振り返った

 保育士の人材不足や不適切な保育の防止を考えた記事「深刻化する保育士不足 過酷な労働条件、平均年収363万円の低い待遇」(2022年12月9日公開)には、多くの反響が寄せられた。ほとんどは保育関係者からのもので、相次いだ保育士による虐待については「絶対にあってはならない」としつつも、「狭い人間関係で指摘しづらい」「低いお給料で過酷な長時間労働を強いる実態が背景にある」との意見も。一部を紹介する。

不適切な保育を見ても「通報は無理」

 「今回の虐待事件は氷山の一角。保育現場の闇が照らされたのは良かった」

 そう寄せたのは、愛知県三河地方の保育園でパートタイムで働いていた保育士の女性(40)。その園では、正職員は言うことを聞かない子を叱り、泣かせっぱなしにしていた。正職員、嘱託、パートという階級があり、女性は何も意見できずつらかったという。「異業種から転職してきた私は閉鎖性に驚いた」と語る。

 掃除など雑用を割り振られることも多かったといい、女性は「保育士資格のない職員なども増やせば、負担が減って余裕を持って保育できるのでは」と提案する。

 静岡県内の保育所で働く保育士の女性(40)も「人ごとではない」と声をひそめる。園では、1人の面倒を見ていると、別の場所で子ども同士がぶつかって泣き出し、そこに別の子のトイレの補助が重なる-といったことが多々ある。目上の職員が園児に「うるさい」と声を荒らげることもあるが、「外部に通報することは無理。もしばれたら孤立し、協力し合う保育ができなくなる。ソーシャルワーカーが定期的に見回るなどして風通しを良くしてほしい」と訴える。

国家資格なのに低賃金 残業は無給 

 一方、「虐待はあってはならないが、縛り過ぎると子どもの危険な行為を叱れない。ただ預かるだけなら資格はいらない」と投稿した保育士も。別の50代保育士も「前後の経緯を知らずに虐待と決め付けないで」と呼びかけた。

 最も多かったのは、一連の事件に胸を痛めつつ、仕事の多忙さや待遇の悪さを世間に分かってほしいと望む声だ。

 ある保育士女性は仕事の持ち帰りや無給の残業は当たり前と言う。「国家資格なのに安い賃金で割に合わない仕事だが、子どもの成長を助けることが喜びであり、誇り」

 愛知県の保育士の女性(55)は「大切な乳幼児期を預かる神聖な仕事」としながらも、「子どもに一生懸命になる人ほど疲弊していて、やりがい搾取のよう。そんな中での虐待事件でクレームが止まらず、余裕がない」とこぼす。劇の準備などで遅くまで残っていた後輩が「私は要領が悪くて」と泣き出したことも。「配置基準を改め、保育士の数を増やしてほしい」と切望する。

 保育士による虐待事件が相次いだ後、この女性の働く保育園では国の要請に従い、職員が自らの保育を点検した。全国保育士会(東京)が公開するセルフチェックリストを使い、「無意識のうちに取った行動が子どもを傷つけていたかもと反省した」と女性。ただ、自己点検だけでは改善しないとの思いもある。

目指す若者にも波紋「知りたくない」

 今回の事件は、保育士を目指す若者の心にも波紋を広げた。東海地方の大学で保育士を養成する准教授は、ある学生が「保育現場で何が起きているか知りたい一方、あまり知りたくない気もする。保育者になる夢を失ってしまうかもしれないから」と語ったことを明かした。「低い賃金、過酷な労働、待遇に合わない重過ぎる責任を課しながら、質の高い保育だけを求める社会こそが保育士を虐待しているのでは」(30代男性)とする意見も寄せられた。

 保育士は労働環境が厳しい一方、やりがいが大きい職業でもある。元保育士の女性(38)は「うまく保育できて、人間関係を築けた喜びは忘れられない。今の保育士の時間と手間が報われてほしい」と願う。岐阜市の元保育士(69)も「子どももさまざまで、引っかいたり、かみついたり。保護者に謝りにも行ったし、つらかったことは山ほど。でも心を込めて関わった思い出は残る」とエールを送った。

コメント

  • 記事を読んで、私も同じ意見があります。 監査に来る方など、調査するならば現場で1週間でも行動を共にしてみてはいかがかと思います。毎日この仕事をこなして自分の家庭に帰り子育てができるかをしてみて下
    もっち 女性 50代