今年のブックサンタは10人の「作家サンタ」が後押し 発起人は直木賞作家の今村翔吾さん

(2023年12月9日付 東京新聞夕刊)

クリスマスに向けた絵本や児童書が並ぶ本棚(紀伊国屋書店新宿本店)

 病気や経済的困窮など厳しい環境の子どもたちへクリスマスに本を贈るNPO法人の取り組み「ブックサンタ」を、直木賞作家今村翔吾さん(39)ら10人が「作家サンタ」として後押ししている。おすすめの一冊をNPOのホームページで紹介し、本を寄付したい人の参考にしてもらう。読書離れが指摘される子どもたちに「あなただけの大切な物語になれば」と願う。

厳しい環境にいる子に本をプレゼント

 2017年に始まったブックサンタはNPO法人チャリティーサンタ(東京)が主催。参加する書店で本を買い、その場で寄付すると、プレゼントの受け取りを希望した家庭をボランティアがサンタクロースに扮して訪ね、0~18歳の子どもにプレゼントする。病院や施設にも届ける。

サンタクロース姿のボランティアから本を受け取る子ども

 今年は新たに作家サンタの取り組みを開始。発起人の今村さんらが「子どもたちへ贈りたい本」を1冊ずつ選び、理由とともにHPで紹介している。

 今村さんは、自ら経営する大阪府箕面市の書店が昨年からブックサンタに参加。苦境の中にいる子どもたちが文化的なものに触れる機会になればと、作家サンタとしても支援することにした。

 「子どもの頃の経験は、大人になった自分に大きな影響を与える」と今村さん。出版社やNPOからも作家に声をかけ、北方謙三さん、黒柳徹子さん、江國香織さんらが加わった。

いつか誰かのサンタになってくれたら

 今村さんが選んだ本は、山田風太郎さんの「甲賀忍法帖」。「ヒーローものなどの創作エンターテインメントの起源がこの本にある」と推薦。自分で本を選んで寄付したい人には「子どもの時の自分に贈るつもりで選んだら、きっと誰かに思いが届く」とアドバイスした。

「作家サンタ」を発案した今村翔吾さん

 「本は読んだ人それぞれの物語になっていく。あなただけの物語にしていってほしい」と願いを込める今村さん。「ブックサンタは未来の読者や、作家を育てる取り組みでもある。本を受け取った子どもたちが、今度は誰かのサンタになってくれたらうれしい」と笑顔を見せた。

「作家サンタ」の発起人・今村翔吾さんにインタビューしました。ぜひお読みください!

直木賞作家・今村翔吾さんが「作家サンタ」に込めた思い 厳しい環境の子どもに物語を届けるブックサンタを応援したい

 チャリティーサンタ代表の清輔夏輝さん(39)は「今までこっそり寄付してくれた作家さんたちもいたが、贈りたい本を選んでもらうという新しい取り組みができてありがたい」。清輔さんによると、今年参加する書店は全国1683店舗で、昨年の2.2倍に拡大した。昨年寄付された本は7万5813冊で、さらに今年は12月6日時点で5万992冊が集まっている。

 物価高の影響もあり、昨年を上回る受け取りの希望があり、今年は約8万人に届ける予定という。プレゼントをもらう側の申し込みは12月17日までの予定。寄付は同24日まで受け付ける。参加書店や詳しい寄付の方法はブックサンタの特設サイトで紹介している。

今村翔吾(いまむら・しょうご)

 1984年、京都府生まれ。ダンスインストラクターや守山市立埋蔵文化財センター勤務などを経て、2017年に「火喰鳥(ひくいどり) 羽州ぼろ鳶(とび)組」でデビュー。「塞王の楯(さいおうのたて)」で第166回直木賞を受賞。作家以外の活動としては、存続の危機にあった大阪府箕面市の書店を2021年に事業承継し、リニューアルオープン。大津市在住。