〈アディショナルタイム〉「楽しむのではなく、面白がる」アスリートをうならせた樹木希林さんの言葉

谷野哲郎

 一流は一流を知るという。分野は違っても、何かを極めた人は引き合うものがあるようだ。先日、スピードスケート女子の小平奈緒選手(相沢病院)が自身のツイッターでこんな言葉をつぶやいているのを見た。

 「『楽しむのではなくて、面白がるのよ』樹木希林さんの言葉が腑に落ちて、楽しむの先にある面白さが今の私の原動力だと気づいた」

 平昌冬季五輪の金メダリストと昨年亡くなった日本を代表する名女優。互いに共通点はなさそうに見えるが、小平選手にとっては得心がいった様子。続けて、「面白がるには、工夫や挑戦、時に自分の弱さを受け入れ、向き合う覚悟が必要。勝ち負けも、良い悪いも、好き嫌いもそこに『面白さ』を見つけられればどこまでも成長できる」と書き込んでいる。

 ちなみにこの「楽しむのではなくて、面白がることよ」という言葉はベストセラーの「一切なりゆき」(文春新書)に収められている。その中で樹木希林さんは補足するように、「楽しむというのは客観的でしょう。中に入って面白がるの。面白がらなきゃ、やってけないもの、この世の中」と話している。

 「楽しむ」と「面白がる」は、どう違うのだろうか。2017年の冬季アジア大会で小平選手を取材したときのことを思い出してみた。彼女はコンマ何秒を削るため、リンクを何周も滑り、結果が出ても出なくても、「一つ一つのレースを反省しながら、改善して。その繰り返ししかない」と話していた。そんな地道でストイックな競技生活を続けてきたからこそ、「楽しむ」より主観的で能動性の強い「面白がる」生き方に共感したのに違いない。

 最近のスポーツ界では、指導者が子どもたちに「楽しめ」と呼び掛けることが多くなった。しかし、よく考えてみると、「面白がる」の方が肌感覚に合う感じがする。技術や心得を教えるのもいいが、子どもに心から面白いと思えることを見つけてもらうことこそ、親やコーチがやるべきことなのかもしれない。

 「一切なりゆき」には娘の也哉子(ややこ)さんが母・希林さんから教えられたというこんな言葉も紹介されている。「おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」。アスリートでなくとも、心に留め置きたい言葉である。 

 「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。