〈坂本美雨さんの子育て日記〉3・巣立ちまでのカウントダウン

(2016年8月12日付 東京新聞朝刊)

娘の誕生日に穏やかに抱っこされてくれた猫の「サバ美」。彼女なりのプレゼント

早かった1年

 先日1歳になった娘が、腕の中で眠っている。仙台の夫の実家へ向かう新幹線の中。左腕のしびれが気になるけれど、むちゅっとつぶれたほっぺに見ほれながら、チューしたいのをガマンしながら、起こさないように右手で原稿を書いています。最近はスタッフや友人たちと、この1年ほんとに早かったねぇ、と語り合う日々。たしかに、とてつもなく早い1年だった。

 いつも寝かせていたソファに、もう自由自在に上り下りでき(教えてないのに上手に足から下りる)、安定した立っちをして米ぽんせんべいを頬張ったり、鉄琴をキレイに鳴らしたり。もう赤ちゃんではないことはやはり寂しく、もう一度生まれたばかりの彼女に会いたい、もう一度彼女と1から始めたい、と昨年の夏を恋しく思う。けれど、毎日濃密で、涙のにじむような幸せから、自らの幼さを突きつけられるイライラまで、自分の中にこんな気持ちがあったんだ-と驚くほど感情を揺さぶられ、とにかく目の前の彼女を守るのに一生懸命だった日々に悔いはない。

おむつゴミさえも、いとしい

 産む前は想像もできなかったいくつもの感覚の中で、印象深いものがある。1つは、生後6カ月のハーフバースデーを迎えた時、成人するまでの四十分の一が終わってしまった…とあぜんとしたこと。そして先日1歳になり、成人までのなんと20分の1が過ぎてしまった。焦る。これがあっという間に10分の1になり、5分の1になり、半分になるんだろう…。始まったばかりの彼女の人生も、親の頭の片隅ではいつも、離れていくまでのカウントダウンになっている。

 もう1つは、おむつごみをごみ置き場に捨て、仕事に行く際にそれがまだあるのを見た時、ふと、やっぱり捨てたくない!と強く思ったこと。愛するわが子の体内から出てきたもの、つまりつい少し前まで彼女の一部だったもの。それが道に捨てられているなんてイヤだ!と感じたのでした。どうにか、乾燥させて、リサイクルできないものか?とすら想像。もちろん拾うことはしませんでしたが…。

 それくらい、全部いとしいなんて、知らなかった! まだまだ彼女はこれから、たくさんの新しい感情を私に教えてくれるんだろう。さて、なんとか彼女を起こさずに書き終えた。寝顔は、まだ赤ちゃんだ。目を覚ますかもしれないけど、もう耐えられない、ほっぺにチュー、してしまおう。(ミュージシャン)