「子育て世代が急増するつくば市に県立高校を」市民団体が要望も、茨城県教育長は否定的

林容史 (2022年9月16日付 東京新聞朝刊)

県立高新設の必要性を訴える「考える会」の片岡さん=つくば市で

 「中学生の6人に1人しか市内の県立高校に入学していない」。つくばエクスプレス(TX)の沿線開発に伴う子育て世代の流入により子どもの数が急速に増えている茨城県つくば市で、県立高を増やすよう求める声が強まっている。8月25日には市民グループが大井川和彦知事らに要望書を提出。だが、県教育委員会は「定員割れしている既存校の魅力アップを図り、定員を確保していくことが先決」と新設には消極的だ。

「進学先の選択肢を増やしてほしい」

 知事と森作宜民(よしたみ)茨城県教育長に要望書を出したのは「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」。昨年5月、小中学生の父母や子育てを卒業した「先輩」たちで結成した。30人ほどのメンバーに最近、建築環境を学ぶ学生も加わった。

 知事らへの要望は昨年11月に続き2度目。市内やTX沿線に新たに全日制高校を設置するとともに、可能な学校から順次、定員を増やすよう求めた。

 会の世話人代表を務める元霞ケ浦高校(阿見町)教諭の片岡英明さん(72)は「遠くの学校や私立高に通う子どもと保護者の負担を減らし、進学先で悩む子どもたちの選択肢を増やしてほしい」と訴える。

 旧茎崎町がつくば市に編入合併された2002年時点で市内に6校あった全日制県立高は現在、竹園、筑波、つくば工科の3校まで減った。並木高は中高一貫の県立並木中等教育学校に移行し、茎崎高は定時制になった。

転入超過数が全国7位 14歳以下は2位

 つくば市では2021年、転入が転出を上回る転入超過数が全国7位の4643人だった。うち14歳以下は866人に上り、さいたま市の1683人に次いで全国で2番目に多い。

◇つくば市立中3年生の推計人数
※2020・2021年度は実績、ピークは2033年度
2020年度 1954人
2021年度 2065人
2025年度 2353人
2030年度 2741人
2033年度 2855人
2038年度 2452人

 子どもの数の急増を受け、つくば市は2026年度までに小学校4校、中学校2校を新たに開校する予定だ。これにより、市立の小学校は33校、中学校は14校となる。

 つくば市の推計では、中高一貫校や私立中学の生徒を除いた市内の中学3年生の数は、2020年度の1954人から、2030年度には787人増の2741人になる。市は2017年度以降、茨城県の当初予算編成に合わせ県立高新設を要望し続けている。

県議会への請願提出へ 署名集める

 考える会が県庁で要望書を提出した後、会のメンバーと懇談した茨城県教委の高校教育改革推進室の担当者は、つくば工科高を来春「つくばサイエンス高校」に改編して2クラス増やし、さらに通学が可能な学校の学級増を検討していると説明し、理解を求めた。

 そんな中、8月30日の森作県教育長の記者会見での発言が波紋を広げた。森作氏は、人口増はあくまでもつくば市内に限った話で、周辺地域も含めれば生徒数は減っていると主張。「エリア全体として考えていく」との方針を述べた。「(市内でも)高校によっては定員に満たないような学校がある」とも指摘し、県立高新設に否定的な考えを示した。

 これに対し、つくば市の五十嵐立青(たつお)市長は9月7日の記者会見で「人口が増えているつくば市に1校造り、その上で周辺の学校の定員を増やしても足りないぐらいだ」と反論。「人口予測データを基に、高校が逼迫(ひっぱく)していくことをきちんと伝えていきたい」と力を込めた。

 考える会の片岡さんは「県が策定した『県立高校改革プラン』の推計では、つくばを含むエリアで生徒数は増えるとしている。教育長の認識の誤りでは」と首をひねる。

 考える会は県議会への請願提出を目指し、9月中にも署名集めを始める。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年9月15日