横浜清陵高校で進む「部活動の自治」 生徒主体になり何が変わった? 情報共有の部長会も月1でスタート
大会に出る?出ない? 選んだ道は
同校では今年5月、鹿屋体育大の関朋昭教授(スポーツ経営学)を招き、「部活動のこれからを考える会」と題した集会を開いた。参加した各部の部員たちはチェックシートを使って自主運営の度合いを確認。「練習メニューの考案」「大会出場メンバーの選出」など顧問の教員に委ねていた内容を洗い出し、徐々に生徒が担う部分を拡大したり、生徒が顧問の教員に考えを伝えたりと、それぞれの部で生徒が主体となる活動を目指してきた。
年内最後の登校日となったこの日、全校生徒の前で発表する機会が設けられた。
ダンス部は、近年校内のみの発表にとどまっていた活動の枠を広げ、新型コロナウイルスの5類移行後、初めて大会の出場を目指した経緯を紹介。元部長の3年、西田恵果(けいか)さんは「大会に出ないことが当たり前になっていく中、普段の部活動の中でも熱量の差を感じることがあり、大会に出ることによってその差が余計な摩擦を引き起こしてしまうのではないかという不安から、一歩踏み出せずにいた」と当初の不安を明かした。
部全体のミーティングを行い、学年を問わず意見を出し合う機会を設けたところ、大会出場を希望する部員もそうでない部員もいたため、話し合いは難航。最終的に、どちらの意見も大切にするために、それまでの活動の内容に加え、大会に出場するかどうかを各自が選ぶ方法を取ることにした。部員47人中、西田さんをはじめとする10人が大会出場を選択した。
大会出場は初めての経験だったため、まずどんな大会があるのかを調べ、出場に必要な条件を部員たちで確認した上で顧問の教員らを説得。無事に出場許可は下りたが、指導できるコーチがいないという問題が浮上した。教員や部員のつてをたどり、最終的にダンスの先生をしている卒業生に部員たちが直接依頼し、外部コーチを引き受けてもらった。
出場した8月の大会では地区予選で敗退したが、「大会に出たいという気持ちをいろいろな人がサポートしてくれてうれしかった。校内でやっているだけでは絶対にわからなかった緊張感や達成感を味わうことができた」とした。
最初は「先輩たちも大会に出ていなかったし、うちのダンス部は大会に出ない高校だから、多分大会には出られないと諦めていた」と明かした西田さん。「『諦めないで交渉してみようよ』と背中を押してくれた先生や、出場を許可しサポートしてくれた顧問の先生方のおかげで、この先もう二度とできない貴重な経験をすることができた。いろいろな方の手を借りて動いたが、自分たちで部活をより充実したものにするために考え、行動できたことは自治につながる大きな一歩だった」と振り返り、「私たち3年生は引退したが、自分たちで考えて口だけではなく行動する姿勢は代が替わっても大切にしてほしい」と期待する。
試合のメンバー決めに生徒が参加
サッカー部は、顧問の教員が決めていた練習メニューや試合のメンバーを、生徒が決めるようになってからの変化を発表した。部長の2年、山西悠斗(ゆうと)さんは「大会に出場するメンバー決めに生徒が関わるようになったことで、顧問の先生が見ていないところで頑張っている生徒を自分たちが評価できるようになり、今まで試合に出ていなかった選手たちが試合に出るようになった。他の選手もそれに刺激を受けてチーム全体のやる気が上がり、強制でない朝練に出る人数も多くなった。チーム内の競争が活発になり、チーム全体が強くなった」と伝えた。
新チームになってからは公式戦は無敗で、神奈川県サッカー協会のU-18サッカーリーグで同高史上初のK5リーグ昇格を決め、2年連続で新人戦1位通過をすることができたことを報告。「自分たちができることがまだあると思うので、あらためて自治についてチームで考えて、自分たちで部活を作っていけるようにしたい」と語った。
顧問の教員が来る頻度を減らすと…
吹奏楽部は、5月の集会で「顧問は専門指導者ではない」という言葉に気づきを得て、「音楽の専門知識を増やし、顧問に頼らなくても自分たちだけで曲を作り上げられるようにしたい」と取り組んできた。部長の2年、余湖咲姫音(よご・さきね)さんは「これまでは『顧問の先生がいてくれなきゃ』という気持ちがあった。先生に部活動に来る頻度を減らしてもらったところ、生徒だけでも自信を持って活動できるようになった。今までよりも一人一人の力が大切だという気持ちが高まり、自主練習をする人が増え、自分たちで技術向上を目指すようになった」と話す。
より自治を深めるため、「部内の意思疎通を深め、音楽の専門的な知識を一人一人が付けていけるように取り組みたい」と今後の課題を発表。「顧問の先生や部長など誰かに依存したり、目の前の楽しさを優先したりするよりも、少し勇気を出して自分から行動すればその後の達成感は素晴らしいし、自信と成長にもつながると考えている」と締めくくった。
技術指導ができない教員も臆せずに
外部から講師を招くなど生徒たちが考える場をつくってきた野原教諭は「ダンス部が大会に出たい生徒もそうでない生徒も共存できる第三の道を探すなど、教員からは出ない発想が生徒から生まれた」とうれしそうに話し、「生徒と同じくらい、教員も変わった」と指摘する。「これまで技術指導ができないことに引け目を感じてきた教員も多かったが、チームや集団の指導や人間関係の調整、目標に向かう姿勢などのサポートこそ、本来、教員が得意とするところ。技術指導ができなくても臆せず関わる意識を持てるようになってきた」と変化を肯定的に受け止める。
同校では今年11月、各部の部長が中心になり、部活動の自主運営について考える部長会を月1回の定例会とすることを決めた。これまでは予算や活動場所、部室の調整などが主だった部長会の内容を大きく変え、部同士のつながりを深め、自主運営の取り組みを共有する場としていく。
12月13日には同高野球部が、来春の第97回選抜高校野球大会の「21世紀枠」の最終候補9校に、関東・東京地区代表として選ばれた(来年1月、この中から2校が決定予定)。その選出理由は、生徒たちが自ら考え、主体的に話し合って決める「自治」を重視する部活動運営だった。
同高の山口修司校長は「主体的に考える意識が生徒たちに育っているのは頼もしい。生徒たち自身が中心となって部活動のあり方を考える取り組みは珍しいのではないか。この成果は、部活動に入っていない子たちにも還元されるはずだ」と話している。
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高校部活動を考える 練習日程、メニュー、出場大会…決めるのは誰? 「生徒主体」に変わり始めた横浜清陵高