野球離れをデータで読み解く 山梨学院大特任助教が全国のチームを訪ね見えてきたもの〈野球のミライ〉
東京や埼玉など8都府県は増加
研究では全日本軟式野球連盟から提供されたデータなどを基に、傾向や経年変化を分析した。論文によると、小学生の軟式野球人口は実数が算出されている2017~20年に1万7996人減少した。年々減り続ける地域が目立つ一方で、東京と大阪、福島、埼玉、滋賀、広島、愛媛、熊本の8都府県は増加。20年の滋賀県は前年比29.1%増と急伸した。
増加した8都府県は地域や人口規模もばらばら。詳細な調査はこれからだが、先進的な取り組みでたびたびメディアに紹介されるチームがあったり、地域貢献活動に熱心な独立リーグがあるといった共通項も見える。南方さんは「野球に興味を持つという入り口が広がっているのが要因では」と推測する。
減少は38道府県(17年のデータがない香川県を除く)。特に20年の北海道は前年比19.1%減、愛知県は同28.7%減と顕著だった。両地域では20年に軟式野球クラブも前年比で20%前後減っていて、関連がうかがえる。一方、クラブ数は増えても競技人口が減っているケースもあった。
1回の体験会で終わらない工夫を
子どもの野球離れについて、南方さんは1990年代から2000年代初頭にかけて進んだスポーツの多様化によって潮目が変わったと考えている。1993年のJリーグ発足でサッカー熱が高まり、スポーツに新たな選択肢が生まれた。また、2000年に国がスポーツ振興基本計画を策定し、バスケットボールやテニスなどさまざまな競技が普及。「そこで何も施策を打たなかった。ほっといても野球をやるだろうと考えていたことが大きな転換点になったと感じる」と指摘する。
少子化や親の負担が要因に挙げられることが多いが、南方さんは「本質はそこではない。野球に興味を持ってもらう。クラブに入ってもらう。そこのハードルを下げないといけない」と話し、そのためには普及活動の進化が求められると強調する。
一般に都道府県の競技団体などの取り組みは、未経験者向け、経験者向けなど細分化された上、単発で終わってしまう場合がほとんど。南方さんは「体験から入団までセットにした活動が必要。例えば全3回の野球教室を開き、1、2回目は初心者だけ、3回目には学童野球に入っている子と体験してもらう。地域にどんなチームがあるのか分かる資料も合わせて配るなど、工夫の余地はある」と提案する。
競技団体や全国の学童野球チームとやりとりし、球界全体で危機意識は共有されているが、解決に向けた具体的な動きは少ないとも感じているという。「根拠や指標がなく、動きづらかった部分がある。論文が今後の競技人口拡大や普及振興事業の形成に貢献する基礎的な資料になれば」と期待した。
◆南方さんの論文「小学生軟式野球人口の都道府県別の経年変化とその地域差に関する研究」はオンラインプラットフォーム「J-STAGE」で公開されている。
南方隆太(みなみがた・りゅうた)
1995年生まれ。小学1年から野球をはじめ、前橋南高や社会人クラブチームの「全府中野球倶楽部」で野手として活躍。筑波大大学院で野球競技人口の研究を始めた。2023年4月から現職。専門はスポーツ政策学。これまでに少年野球を中心に全国の300チーム以上を訪れ、指導者や保護者らに聞き取り調査をしている。