ぐちゃぐちゃ遊びの「ダメのない世界」が、初めて子育てする不安を和らげてくれた

絵の具、新聞…汚れは気にせず

 来月で3歳になる娘は、年末から「保育園に行きたくない、おうちがいい」と繰り返していましたが、待ちに待ったおうち時間を満喫しました。親としては、いつもの生活リズムを崩さないようにと悶々としますが、やっぱり遅寝遅起き…。久しぶりの保育園が始まりましたが「今日お休みだよね?」はしばらく続きそうです。

 突然ですが、「ぐちゃぐちゃ遊び」って聞いたことありますか? 3年前、故郷から離れた埼玉県で、初めての子育てをスタートしました。不安でいっぱいでしたが、ぐちゃぐちゃ遊び教室のおかげで、0~2歳の子育てが彩り豊かなものになりました。

桜のじゅうたんに吹かれる1歳1カ月の長女

 ぐちゃぐちゃ遊びは、主に0~3歳を対象に、絵の具や新聞紙、片栗粉などを使って、汚れるのを気にすることなく、親子で文字通りぐちゃぐちゃになるアート遊びです。冬ならクリスマスや雪、春は桜やピクニックと、毎月季節に沿ったテーマがあり、先生が絵本を読んで教室が始まります。部屋の壁や床一面に模造紙が張り巡らされ、絵本の世界を表現していきます。全身絵の具まみれになるので、自宅ではなかなかできないダイナミックな遊びです。

母子2人きりの育児の息抜きに

 生後8カ月から月1回、さいたま市内の教室に通ったわが子は、初めは絵の具のトレーをひっくり返すことに夢中で、1時間半ずっとそればかりに没頭していました。先生は、その子の「やりたい!」を尊重してくれるので、他の子が次の工程に移っても、そのまま続けさせてくれます。月齢を重ねるごとに、ローラーでくるくると絵の具をのばしてみたり、壁に手でぺたぺたとスタンプのように描いてみたり、成長を感じられる瞬間がありました。

 私自身も夢中になって、高いところから絵の具を降らせてみたり、子どもの服に絵の具を塗ってみたり、2人きりの育児の息抜きになっていました。また、先生は幼児教育の知識が豊富で子育ての先輩でもあるので、コップ飲みの練習の仕方などちょっとした相談に乗ってもらえたことも心強かったです。

きっかけは砂場のどろんこ遊び

 この遊びを「ぐちゃぐちゃ遊びの親子教室」として立ち上げた横浜市都築区の会田夏帆さん(38)を昨年末、訪ねました。

「あい先生」と親しまれている会田さん

 大学で幼児教育を専攻し、幼稚園教諭の免許を取得した会田さん。「社会を見てみたい」と金融機関に就職し、妊娠を機に退職。2011年に長男、13年に長女を出産しました。

 長男が2歳、長女が0歳の夏、かねて「幼少期は感覚を刺激する遊びを楽しんでもらいたい」と考えていた会田さんは、どろんこ遊びを始めました。朝一番に誰もいない公園で、砂場に水をくんでどろどろに。洋服が汚れるのを気にすることなく目いっぱい遊んでもらったといいます。これがぐちゃぐちゃ遊びの原点です。

 当初は、自分の子がどろんこに入ろうすると「やめなさい」と引き留める保護者もいたそうです。それでも毎朝続けるうちに、一緒にやりたい親子が集まるようになってきました。中には「ここならどろんこ遊びができるから」と自転車で隣町から来ていた親子もいたそうです。上の子が幼稚園に入るタイミングで親子遊びのサークルを立ち上げ、2016年に教室を開いて現在に至ります。

子どもの「やりたくない」も尊重

 教室では、子どもの「やりたい」と同じように「やりたくない」も大切にしています。中には、絵の具の感触が苦手という子もいます。毎年必ず、部屋の隅っこにぽつんと立つ子がいるそうです。そんな子には、「やらなくても大丈夫だよ」と声を掛けます。

見学したこの日のテーマは落ち葉

 会田さん自身、幼いころから服のタグやタイツなど肌にチクチク触れるものが苦手だったそう。苦手な食材も多く、学校給食で無理やり食べさせられる指導で人前で吐いてしまった苦い経験があります。だからこそ「苦手だからやってみる機会を与えないというわけではなく、機会はつくるけど、やるやらないは自分のタイミングでいいっていうのを大切にしたい」。少しの時間なら触りたいとか、素材が変われば大丈夫とか、その子なりのやりたいタイミングを待つそうです。

「ダメ!」と言いがちな毎日で

 私が教室で深く共感したのは、「ダメのない世界」という表現です。

 子育てしていると、牛乳をこぼされそうになったり、スーパーで買わないものを触られそうになったり、「やめて!」と必死で止める場面ってたくさんありますよね。児童館で遊んでいても、お友達のおもちゃを奪ってひやひやするとか。

 そんな毎日の中で、ぐちゃぐちゃ遊びの時間は何をしても、しなくてもOK! 絵の具のついた手でお友達を触っても「お互いさま」の精神で、周りの保護者の目を気にすることなくのびのびと遊ぶ。子どもが年齢を重ねるごとに、「ダメ」や「早く」と言ってしまう場面が増えている気がしますが、もう少し寛大に2歳、3歳の今ならではの子どもらしさを大切にしてあげたいと自戒しています。

足の裏でダイナミックに描く

 今では、会田さんに学んだ認定講師が全国で教室を開いています。都内をはじめ中部地方や関西など35カ所で、対象年齢もさまざま。3~9歳向けの科学×アート教室などもあります。子どもを教室に通わせるお母さんたちからは「水たまりでびちゃびちゃに遊ぶことにも寛容になれた」「ぐちゃぐちゃ遊びを経験していなければ、砂まみれになることすら息子を怒っていたと思う」と、子育て観の変化が感じられます。

 3年前の私のように、見知らぬ土地で初めての子育てと向き合う保護者は多いのではないでしょうか。地域には、児童館など同じような環境の親子とつながれる場所もあります。不安だな、誰かと話したいなと思っていらっしゃる方にこのコラムが届きますように。

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