「こども誰でも通園制度」保育士はどう思う? アンケートに75%が「不安」 毎日違う子が来るなら専門のプロが必要では

(2024年1月24日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 共働きの世帯でなくても保育施設に子どもを預けられる「こども誰でも通園制度(仮称)」。こども家庭庁は2026年度からの本格的実施に向け、試行的に取り組む自治体を2024年度中に150ほどに拡大する方針だ。ただ、民間企業が実施したアンケートでは、不安を抱く保育士が7割を超えている。

グラフ アンケート「誰でも通園制度」どう思う?

こども誰でも通園制度とは

 国の少子化対策の柱の一つ。こども家庭庁が2023年末に取りまとめた試行的事業の実施方針では、対象は生後6カ月~2歳の未就園児で、利用時間は月10時間、保護者負担は1時間300円程度が目安。子どもが慣れるための親子通園も可能とする。23年度に実施するモデル事業の対象は全国31自治体の50施設。

「在園児に丁寧な保育ができない」

 保育士向けメディア「ホイクタス」を運営するIT企業dott(ドット、東京)が昨年11月、全国の保育士を対象にしたオンラインアンケート(149人が回答)では、制度について「悪いと思う」「とても悪いと思う」とする回答が計75%に上った。理由は「現場の負担が増える」「在園児に丁寧な保育ができない」など。保育現場が逼迫(ひっぱく)している様子がうかがえる。

 元保育園長でアンケートを実施した石井大輔さんは「ただ預かればいいわけではなく、保育の質を担保すべきだという現場の声を国に届けたかった」と話す。

 調査に協力した東京都板橋区の認可保育園「はぁもにぃ保育園」の山下真由美園長は「制度として必要なのは理解できるが、国の保育士配置基準を倍にしてやっと保育に余裕が生まれる。空き部屋があるから受け入れられるという話ではない」と訴える。

毎日違う子ども…違う専門スキル

 はぁもにぃ保育園は、0~5歳児の定員を各10人と少なくし、保育士も国の基準より1~2人多く配置。勤務形態は「書類業務なしの時短勤務」「担任は持つが書類業務なし」など職員のニーズに合わせて7種類に上る。「10年かけて態勢を整え、やっと出産しても働き続けられる職場になった」という。

 だが、前出の石井さんは「残業ありきの園はまだ多いのではないか」とみる。

こども誰でも通園制度

配置基準より多く保育士を配置する板橋区のはぁもにぃ保育園

 山下園長は「子どもたちが毎日来て、遊び、生活する連続性の中で、育ちや発達を見ながら保育計画を立てている。毎日違う子どもが登園する新制度は、別の専門スキルが必要になる」と指摘。導入する場合、「子育て支援センターの保育士やベビーシッターなど、毎日違う子どもと接するプロを採用したいが、それができる潤沢な補助金が出るのか」といぶかしむ。

遊びや食事で安全を担保できるか 

 試行的事業では、月10時間の範囲内で日時を決めて定期的に通う「定期利用」のほか、空いていれば直前まで予約可能な「自由利用」の枠組みも想定している。名古屋市内で認可保育園を運営する社会福祉法人新瑞(あらたま)福祉会の石井一由記理事長は、「0~2歳児は、遊びや食事の中で誤嚥(ごえん)事故が起きやすい。保育に慣れた現場でも『ヒヤリハット』が起こる中で、定期的に利用していない子も受け入れる仕組みは危ない」と懸念する。

 親の通院やリフレッシュなどを目的に子どもを預けられる既存の「一時預かり事業」(1269自治体で実施)とのすみ分けも課題だ。石井理事長は、一時預かりの体制を国が整えた上で、それ以外に、子育てに悩み、社会とつながる必要性の高い家庭を「誰でも通園」で受け入れる仕組みを提案する。

保育士とは別のスタッフも必要?

 こども家庭庁の有識者検討会では「(誰でも通園制度で)専任保育士を配置する必要があるので、保育士以外でもできる仕事は別のスタッフを採用してはどうか」との意見が出ている。

 同庁担当者は「人材を確保し、余裕のある形にしていくことは課題。人員配置だけでなく、現場が感じている負担をどう軽減していけるのか、補助者の活用や保護者との連絡・書類作成といった保育業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)化などにも取り組まなければいけない」と話している。

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  • ひなっち says:

    去年専門学校を卒業して男性保育士になりました。保育士になって思ったことは、やはり人手不足だと分かりました。保育士の配置基準も基準に達していないこともあり、園の職員に負担がかかっているのにも関わらず、政府はこども誰でも通園制度を作り、保育士の負担をさらに増やしていることに、疑問を感じてます。保育士の確保も難しい中、子どもを増やしても職員にさらに負担がかかっていく一方だと思います。それだったら、保育士の配置基準や待遇、手当を増やし保育士が働きやすい環境を作っていくのが先なのではないでしょうか?

    ひなっち 男性 20代
  • みりん says:

    月10時間で、親はリフレッシュできるの??保育者はどんどん減っているけど、このままその制度に突入して人員が増えるとでも…?

    正直そんな制度で(あ、よかった!これで安心して子ども産めるわ!)って誰がなる??こんなので少子化抑止になるのかな??

    みりん 女性 30代
  • Y says:

    私は大学卒業後に働きながら、保育士試験で資格を取り、13年程現場で働いていましたが、現在は事務仕事に就いている潜在保育士です。

    まず、在園児の事が全く考えられていないことが問題だと思います。突然一日だけ預けられた子供が急に園生活に慣れ、すぐに笑顔で過ごせるものとでも思っているのでしょうか?そんなわけはなく、きっと一日中泣くことになる…ではその子に保育士が一人、一日中側に付く事になり、その分の皺寄せは誰に行くかと言えば、もちろん残りの子供をいつもより少ない数で見なければいけない保育士にも負担がかかりますが、その状況によっていつもよりも質の下がった保育を受ける事になる子供達に一番皺寄せが行くのではないでしょうか?

    現状でも日々保育士の数が足りないと言われている状況で更に人手不足が目に見えている状況にさせようとするこの政策は、愚策としか言いようがありません。

    そもそも株式会社の保育会社を許した事により、子供よりもお金儲け優先の園が沢山存在する事実もあり、子供達の事を考えると、会社と戦う事も多く…それでも何も変わらないことに絶望して保育士を辞めました。何もサービス残業、薄給だけで辞めていく保育士だけではありません。子供達の事を考えられる保育士がどんどん辞めていくのですから、保育の質が低下するのも当たり前の話ですよね?

    事務職になって勤めた会社の部署には、私を含め15人中3名も潜在保育士、その後入ってきた人も潜在保育士でした。こんなにも潜在保育士が存在してしまう社会が異常です。

    安易に、預けられる所があれば少子化対策になると考える前に、子供の事を考えられる保育士程、潜在保育士になってしまう現状をなんとかする事こそ、少子化対策に最も重要な政策なのではないでしょうか。

    Y 女性 40代
  • k says:

    40才で保育士資格を取り、園勤務を経てベビーシッターをしています。東京都ではベビーシッター利用支援事業を行っています。その資格も取りました。

    東京都ベビーシッター利用支援事業には2種類あり、保育園を希望しても入れなかった方を対象に(利用されるのは皆さん乳児)、保育園と同様の毎日の保育を提供する定期利用と、一時預かりとが別にあります。規則などもこの2種類では異なります。

    企業型ベビーシッター割引券(旧内閣府)もありますが、数が足りていません。あと出来ない規則も多いです。企業の福利厚生の割引もあります。

    いまだにサビ残・早出、持ち帰り必須のブラックな保育園もあります。まずは配置基準の見直しが急務だと思います。

    保育園で一時預かりするなら、毎日利用とは別の保育士や規則が必要です。また企業型ベビーシッター割引券が足りていないので、もっと対策した方がいいのではないでしょうか。

    k 女性 40代
  • にゃんこ says:

    30年以上保育士をしています。

    少子化なので、仕方ないとは思う反面、何でも政府は保育園に!という話を持ち出していますね。現場の負担や子どもたちの事を本当に考えているのか?といつも不信感でいっぱいです。

    現場で働いている保育士のほとんどは子どもたちの事を思って一生懸命保育をしていますが、現場の負担が限界になってくると、辞めたり、預かっている子どもたちにも良い影響はないのかと思っています。

    現場の声も聞いて、保育士も幸せな状況もつくってもらえたら、こういう話も出てこないと思います。どうか少しでも、現場の声を聞いてください。そして、3Kと呼ばれない仕事になりますように…

    にゃんこ 女性 50代
  • きなこ says:

    パートの保育士です。
    誰でも預かって、事故が起こらないようにするのは不可能だと思います。現場を知らない人たちが決めた制度だとつくづくあきれます。

    子どもの命を守るために、母親や保育士たちがどれだけ神経を日々擦り減らしているか…。今でさえ人手不足なので、せめて人材を確保するために、賃金を教員や企業並みに上げてほしいです。

    きなこ 女性 50代

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