「こども誰でも通園制度」ニーズも運営方針も地域で大きな差 親子が孤立しがちな都市部は申し込み殺到、地方では利用ゼロも

浅野有紀 藤原啓嗣 (2023年11月8日付 東京新聞朝刊)

「こども誰でも通園制度(仮称)」を利用し、在園児とは別室で過ごす子どもたち=東京都文京区で

 東京新聞は10月、「こども誰でも通園制度(仮称)」のモデル事業に取り組む首都圏と中部地方の20自治体を対象にアンケートを実施した。地域ごとのニーズの違いのほか、現場の負担増への懸念などが示された。従来の保育と両立しつつ、どうやって実現可能な態勢をつくるのか。事業の現場を取材してみると、手応えや期待感を示す声が聞こえる一方、課題も浮かび上がる。

こども誰でも通園制度

 親が就労しているなどの要件を満たしていなくても、誰もが定期的に保育施設へ通えるようにする制度。行政の支援が届きにくい親子が孤立し、虐待などにつながることを防ぐ狙いがある。国の少子化対策の柱の一つとされ、こども家庭庁は、月10時間までの枠で、時間単位で利用できる仕組みを想定している。区市町村が指定した保育所や認定こども園、幼稚園などで導入される見込み。来年度からの本格実施を前に、現在は31自治体50施設でモデル事業が行われている。保育園などに通っていない5歳以下の子どもは、同庁の推計では約152万人おり、2歳以下が9割以上を占める。

文京区 140人超がキャンセル待ち

 「母子べったりだったので預けられてホッとした」。東京都文京区の中津アリネさん(38)は10月から長男(2)を週1回7時間ほど通わせる。キャンセルで枠が空き、利用できた。同区では、6月の予約開始初日に申し込みが殺到。今も希望者140人超がキャンセルを待つ。

 イヤイヤ期の長男は、激しいかんしゃくが数十分続くこともあるといい、「自分も余裕がないとつい声を荒らげてしまう。(虐待などと間違われて)近所の人に通報されるんじゃないかと思う時もある」と中津さん。「1日預けると、次の日は子どもに笑顔を向けられる」と事業に感謝する。

 受け入れる認可外保育園の村瀬光世園長も「子育てで手いっぱいで、十分な睡眠や食事ができていなかったお母さんたちが、すっきりした表情になってきた」と手応えを感じている。

在園児と別室 職員数に余裕が必要

 文京区は、この園で0~2歳児を1日6人、1週間で計30人受け入れる。在園児とは別室で、保育士2~3人と過ごす。

 「集団生活に慣れていないと、散歩や食事など在園児と同じリズムで過ごすのは難しい」と村瀬園長。在園児の保護者からも一緒にすることへの懸念の声があるといい、「在園とモデル事業の親子全員を公平にするには、同室での保育だとバランスが取れない」。ただ、定員や教室、職員の人員に余裕がない施設では、こうした別室での対応は難しそうだ。

松戸市「支援が必要な家庭」に限定

 文京区のような公募ではなく、支援の必要な家庭に限って通園を促す自治体もある。千葉県松戸市は、市独自のアンケートで未就園児の子育て状況を把握していたため、負担感や孤立感を抱える家庭に限り、利用を呼びかけた。10月13日時点で3園に計28人が通う。

 通院や買い物などで子どもを短時間預ける一時預かり事業とは区別している。担当者は「モデル事業では利用者を絞り、虐待などを未然に防ぐ対策として進めている。このまま新制度に移行すれば市内で約6000人が対象になり、対応は難しい」と不安視する。

「一時預かり事業」とのすみ分けは? 

 一方、福井県若狭町では、利用者は1園の6人にとどまる。もともと一時預かり事業を活用して定期的な利用が可能。モデル事業は「新しいことを始めたという感じではない」(担当者)という。

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在園児とモデル事業を利用する子が一緒に過ごす施設もある=福井県若狭町で

 静岡県島田市では、8月から受け入れを開始したが、同日時点で利用者はいない。負担感を抱える家庭に保健師が利用を呼びかけるが、今夏の猛暑の中で子どもを屋外に連れ出すことを心配した母親もいて10月上旬までに1人が利用したのみ。こちらも一時預かり事業があり、担当者は「モデル事業とのすみ分けが分からない」と戸惑う。

滋賀・近江八幡市では募集に苦労…

 滋賀県近江八幡市は11月から事業を始めたが、募集に苦労する。対象の2つの園に2歳児以下の空きはなく、3歳児以上で1日5人の受け入れが可能だが、担当者は「3歳以上はほとんど通園しているため、人が集まらない」とこぼす。

 「保育園を考える親の会」(東京)の普光院亜紀顧問は「地方も核家族化が進んでいるが、祖父母が近くにいるなど比較的育児を手伝ってもらいやすい。都市部の方が孤立しやすく、ニーズが高まったと考えられる。保育士配置や場所の確保が適切にできるように、国がしっかり支援することが大切だ」と話す。

 アンケートは10月2~25日、首都圏と中部地方の20自治体に実施。10月13日時点での利用状況を聞いた。主な質問は、実施方法や子どもの選定方法、事業を続ける上での課題など9項目。結果は後日、詳報します。

 

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来年度には全国で本格的にスタートする予定です。保育士不足など、解決するべき課題は何かを探りました。

本格導入に必要なものは? モデル事業の自治体担当者に聞きました

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  • 保育士 says:

    誰の為の制度なのかが、理解できません。待機児童対策として、保育園が作られたが、次第に空きがでてきた為にその空きを埋めようとしているだけに感じてしまいます。

    そもそも子どもに対しての保育士配置基準が見直す必要があるのと、保育士も子どもをもつ親であり、人手不足のなか長時間労働をし、親子で過ごしたくても過ごせない事実があるというのを、知って欲しいと思います。働いていない保護者の育児支援は絶対に必要だと思いますが、この制度だとさらに保育士の負担が増える一方な気がしてなりません。

    利用する子どもが増えるということは、それだけ保育士が必要になりますが、保育士希望者がいなければ、1人に増える負担が大きくなる一方です。また、人手不足解消のため保育補助という資格のない人を雇う事もありますが、逆に保育士の負担が増えてしまう事もあり、資格の有無に関わらず、子どもの育ちに携わる職員の質というのがとても大事になっていきます。人を増やせばいいというわけではないのです。

    そこの手立てがないままのこの制度には不信感しかありません。保育士の不祥事があり、現場への厳しい目が増えている一方で、保育士を味方してくれる人はいないようにさえ思います。子どもは好きだけど…と離職していくのも当然ではないかと思えます。

    保育士側にももう少し納得いく説明があってから、制度を考えていって欲しいです。

    保育士 女性 30代

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