「こども誰でも通園制度」本格導入に必要なものは? モデル事業の自治体担当者に聞きました

浅野有紀、藤原啓嗣 (2023年11月8日付 東京新聞朝刊)
 東京新聞の調査に対し、「こども誰でも通園制度(仮称)」のモデル事業に取り組む自治体のほとんどが、事業を継続する上で職員の確保や負担増を課題として挙げた。新しい取り組みによって、現場で何があったのか。制度を軌道に乗せるには何が必要なのか。声を聞いた。

こども誰でも通園制度

 親が就労しているなどの要件を満たしていなくても、誰もが定期的に保育施設へ通えるようにする制度。行政の支援が届きにくい親子が孤立し、虐待などにつながることを防ぐ狙いがある。国の少子化対策の柱の一つとされ、こども家庭庁は、月10時間までの枠で、時間単位で利用できる仕組みを想定している。区市町村が指定した保育所や認定こども園、幼稚園などで導入される見込み。来年度からの本格実施を前に、現在は31自治体50施設でモデル事業が行われている。保育園などに通っていない5歳以下の子どもは、同庁の推計では約152万人おり、2歳以下が9割以上を占める。

◇担当者の主な声(自治体へのアンケートから)
品川区 現場には在園児と非在園児の両方を預かるノウハウが不足しており、サポートが必要
中野区 誰のための何の支援なのか、子どもの視点に立っているのか、子どものウェルビーイング(幸福)につながっているのか疑問
八王子市 自治体により実施内容が異なるモデル事業を国がどのように制度化するのか気になる
石川県七尾市 保護者や保育者への周知、理解を得ることが難しい
愛知県大府市 子育てに負担を感じている世帯に利用してもらい、負担軽減につなげるのは意義がある

保育士負担増「まずは処遇改善を」

 東京都中野区の小規模保育所では、0歳児のクラス1人分の空きを利用して、利用者2人が8月から週2回通う。1人の枠を2人で利用するため、担当する保育士は月間の保育計画「月案」や連絡帳、発達記録などを2人分用意することに。通常の在園児への対応より仕事量は増えた。

 週2回の通園だと、子どもが園に慣れるのに1カ月以上かかった。モデル事業のほか、年度途中の入園もあり、3人の0歳児が泣きやまず園長を含めた保育士3人がついたことも。国の配置基準の3倍の保育士が必要になった計算だ。

 このクラスの主任保育士は「モデル事業が始まると、4月の慣らし保育期間に戻ったようだった」。園長は「仕事量に報酬が見合わないと、保育士の離職につながる。処遇の改善が第一だ」と語る。

グラフ アンケート結果 モデル事業を継続する上での主な課題(複数回答)  

 事業を続ける上での課題を聞いた設問(複数回答)では、18自治体が「職員の確保」と回答。「職員の負担増」(16自治体)が続く。国立成育医療研究センター研究所社会医学研究部の加藤承彦室長(幼児教育・母子保健)は「スポットで利用する子どもが増えると、保育士の負担が増す。質の良い保育を提供するために、環境を整えるのが『誰でも通園』の最低条件」と指摘する。

通園回数少ない分、基準より手厚く 

 愛知県大府市のビオーズよこね保育園は、0~2歳児のモデル事業を利用する子ども2人に対し、国の基準を上回る専属の保育士2人を配置した。在園児より顔を合わせる機会が少なく、保育士がその変化に気付くのに苦労することを見越し、手厚くした。

 園では通常、保育士の負担を軽くするために情報通信技術(ICT)を活用し、保護者との連絡にスマートフォン、書類作成にパソコンを使う。ただ、短い時間でも濃いつながりを築こうと、モデル事業ではアナログに戻した。専用の書類に手書きで記録を付け、保護者からの欠席連絡にも電話で応じている。

 母親が送迎時に「給食だとどうして嫌いなメニューでも食べられるんですか」と保育士に尋ねるなど、信頼を寄せてくれるようになったという。野沢幸代園長は「負担はあるが、子育てに行き詰まっている母親を支える手応えも感じる。保育園が地域のために開けた施設になるといい」と期待する。

本格導入時には利用時間に上限が… 

 国は本年度中にも、新制度を試行的に始める考えだが、想定する利用時間の上限は月10時間。本年度のモデル事業とは異なる。調査対象の自治体のうち、この上限に収まるのは東京都八王子市のみだ。滋賀県米原市は、1日6~8時間の利用で事業を設定し、0歳児2人が利用する。月換算すると24~64時間になる。市の担当者は「今後も同じようにできないとしたら、保護者にその説明をするのは心苦しい」と明かす。

 全国私立保育連盟の常務理事丸山純さん(56)は「しっかりとした制度設計と予算措置がないと安定的な運営はできない。そうなれば一番被害を受けるのは子どもだ」と指摘する。

 アンケートは10月2~25日、首都圏と中部地方の20自治体に実施。10月13日時点での利用状況を聞いた。主な質問は、実施方法や子どもの選定方法、事業を続ける上での課題など9項目。結果は後日、詳報します。

 

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  • cotoriさん says:

    「こども誰でも通園制度」本格導入に必要なものは? モデル事業の自治体担当者に聞きました(2023年11月8日付 東京新聞朝刊)の記事を興味深く拝見しました。

    「こども誰でも通園制度」より前から、特定の要件を設けず誰でも利用できる保育園を民営で行っています。行政機関でケースワーカーをしていた職員らが「既存にないけど必要なもの」として立ち上げました。

    開所当時は「誰でも、いつでも、どんな理由でも」預かる一時保育を想定していましたが、子どもとの継続性の中での安全な保育、また運営の安定を考えた末、今年2月から月極め「ぷち保育」を始めました。

    「誰でも~」と同じく対象年齢は0歳~2歳としており、平日10時~15時/1回、週1日~週5日まで選べます。モデル事業に取り組む自治体のアンケートにあるように、育児負担軽減などの保護者支援の側面と、子どものウェルビーイング(福祉)とのバランスが大切であると考え、子どもと保護者それぞれの立場に立ってプランニングしています。

    月齢や利用頻度も違う子どもを同時に預かる課題については、曜日を固定することで対応。例えば月曜日利用の子は「月ぷちっ子」として、子どももスタッフも顔ぶれを固定させることで子どもの慣れを支えます。

    また「比較的月齢の高い子が多い曜日」「小さい子が多い曜日」など、完全には分けられないものの、子どもの安全や職員の負担軽減のためにも細かな調整をし、保護者にも協力していただいています。

    5時間の中には午前中の遊び→給食(自園調理)→お昼寝→おやつ、という楽しさの中で生活リズムを定着させる内容を盛り込み、保護者も、休息、買い物、ランチ、美容院、通院など、少しまとまった時間が取れるかな、という気持ちです。

    試験的に始めた取り組みでしたが、今ではメインの事業となりました。この通園制度はとても意義深いと思いますが、月10時間の制限があり、当事業所のぷち保育に照らすと月に2回しか通園できないことになります。これでは子どもも保育者の負担も大きいと思います。当事業所では週2回利用の方が最も多く、個人差はあれども1カ月程度で慣れます。

    また、月案などの保育計画は従来のものとは同じにできないため、受け入れ園は丁寧な発想の転換が求められるであろうと考えます。いずれにせよ、この制度を充実させるには、受け入れ側の努力と保護者の協力が求められると考えます。

    cotoriさん 女性 40代

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