妻がいなくなって10年、生後112日だった息子は10歳になり…〈清水健さんの子育て日記〉67
頼むよわが息子、と思いながらも
「お父さんの見えないところでうまく手を抜いているんだと思います」。息子の個人懇談で担任の先生と大笑いしました。小学4年生、要領よくなってきた? いや、提出物はちゃんとしなくちゃいけない! 頼むよわが息子、と思いながらも、これも成長だとうれしく感じる僕がいました。
先日、パーソナリティーを務めているラジオ番組で、妻の主治医だった先生と「乳がん検診」をテーマに共演しました。闘病中、何度も悔しさをぶつけ、治療方針についても言い合った先生。僕はずっとピリピリした、わがままな患者家族だったと思います。それでも一緒に妻の命と向き合ってくださり、母親同士として、僕の知らないところで妻の心の味方でもいてくれたと思う。感謝しかない。
「2020年の統計にはなるが、日本人の9人に1人の女性が乳がんに罹患(りかん)するというデータがあります」。自分ごととして捉えてほしいと先生が話される。でも、「乳がんは今はそれほど怖がるがんでもなくなっているんですよね?」と聞くと、「今、乳がんはステージ1の場合、98%以上が完治するんです」とも。早期発見、早期治療。
日本の乳がん検診率は50%以下
正直、僕が伝えてよいのか迷う時があった。妻が罹患したのは助かる可能性が高い乳がん。なのに妻の姿はない。そんな僕が言って説得力があるのか。検査を実際に受けたこともない。痛さはあるのか? 妻から生検の痛さは聞いている。仕事、子育て、親となってわかる日々の忙しさ。検査結果までの不安はたまらない。乳がんだとわかっても生活を変えることなんてできない。ためらう理由が全てわかる。でも、助かる可能性が高くなるんです。
日本の乳がん検診率は50%以下という現状。「40歳以上の方は検診を受けてほしい。39歳以下で乳がんに罹患するのは乳がん全体の5%以下、30歳以下になるともっと低くはなるので、異常を感じたら医療機関に相談してほしい」。その先生の言葉に僕は思わず「妻は28歳でしたよ」「そうですよね」。こんなことを今さら聞いても仕方がないのはわかっているし、また先生を困らせている。でも「なぜ、その数%に入ってしまったんだろう」。その思いは消えることはない。
2025年、妻がいなくなって10年になります。生後112日だった息子は10歳になり、僕はシングルファーザーとなって10年になる。僕たち親子にとって、妻がいない当たり前の毎日。この現実はやっぱり悔しいです。だからこそ、「大丈夫を確かめるために」。今年ラストの子育て日記で、一人の患者家族として。
清水健(しみず・けん)
フリーアナウンサー。長男誕生後に妻を乳がんで亡くし、シングルファーザーに。
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