子どもの受動喫煙を防ごう 在宅時間が増えて家族から”被害” 大人より呼吸数が多いためリスク大

長田真由美 (2022年12月6日付 東京新聞朝刊)

 新型コロナウイルスの流行で自宅で過ごす時間が増える中、家庭内で「受動喫煙」に遭う人が増えている。特に子どもは大人よりも健康被害を受けやすい。望まない受動喫煙を防止するための改正健康増進法が2020年4月に全面施行されたこともあり、地域ぐるみで子どもの健康を守ろうとする動きが出ている。

体重当たりの煙を吸い込む量も多く…

 紙巻きたばこの煙には「3大有害物質」と呼ばれるニコチン、タール、一酸化炭素のほか、70種類以上の発がん性物質が含まれる。受動喫煙は、たばこの先端から出る副流煙や、喫煙者が吐き出す煙を周りの人が吸うこと。成人では肺がんや脳卒中、虚血性心疾患など深刻な病気になるリスクが高まる。加熱式たばこの煙にも有害な物質が含まれている。

 受動喫煙に詳しい国立病院機構下志津(しもしづ)病院(千葉県四街道市)の小児科医、鈴木修一さん(51)によると、子どもは大人と比べて呼吸数が多く、体重当たりの煙を吸い込む量も多くなるため、影響を受けやすい。気管支ぜんそくや気管支炎、中耳炎、肺炎などのほか、妊娠中の母親による喫煙は乳幼児突然死症候群を引き起こす恐れもある。

千葉市調査で尿中に高いコチニン濃度

 受動喫煙の影響を可視化して子どもたちの健康を守ろうと、千葉市は2019~2021年度に3回、市内の小学4年生を対象に影響を調べるモデル事業を実施。2020年4月施行の市受動喫煙防止条例で、子どもの受動喫煙を防止するよう保護者の責務を規定したことが背景にある。

 影響の有無は、コチニンという物質の尿中濃度が目安となる。たばこの煙を吸うとニコチンが体内に入り、コチニンに変わって尿中に排出されるからだ。調査では、影響を受けている値を「1ミリリットル当たり5ナノグラム以上」と設定。2021年度は検査を受けた1566人中、65人が該当し、そのうち61人は同居家族に喫煙者がいた。過去2回の調査でも、基準値より高い濃度を示した児童の90%以上に喫煙する同居者がいた。

 千葉市は今年6月、こうした結果や受動喫煙による健康への影響をまとめたリーフレットを市内の児童生徒へ配った。千葉市健康推進課の担当者は「今後も継続して啓発していきたい」と話す。

喫煙後の呼気も有害 室内へは5分後に

 啓発の成果が目に見えてきた地域もある。埼玉県熊谷市は市医師会の提案を受け、2007年度から毎年、小学4年生を対象に尿中のコチニン濃度を測定する「受動喫煙検診」を実施。1ミリリットル当たり10ナノグラム以上を「高値」とし、高値の児童には個別に文書で医療機関の受診を勧め、保護者にも家庭内での禁煙を促してきた。高値の児童の割合は2007年度の12.7%から2021年度は2.9%にまで下がり、「こうした取り組みが受動喫煙を防ぐ動機づけになっている」と担当者。群馬県太田市や千葉県君津市、神奈川県海老名市なども同様の取り組みを進めている。

 千葉市の調査に協力した鈴木さんは「親が喫煙する環境で育てば、子どもはそれが普通だと思う」と指摘する。換気扇を回しながら吸っても、煙はなかなか外に出ていかない。別の部屋で吸っても煙は漏れ出てくる。喫煙後の呼気にも有害物質が含まれており、「少なくとも5分以上たってから室内に戻って。家庭では室内終日禁煙が重要」と呼びかける。

喫煙者と同居の3人に1人が「増えた」

 国立がん研究センターは昨年3月、たばこを吸う人と吸わない人それぞれ1000人にアンケートを実施。新型コロナの感染拡大に伴うステイホームや在宅勤務などによって受動喫煙が増えているか聞いたところ、非喫煙者818人の10.6%が「増えている」と回答。非喫煙者のうち、喫煙する同居人がいる約260人の中で見ると、約3人に1人が受動喫煙に遭う機会が増えていた。