感受性の高い人「HSP」を誤解していませんか 「生きづらさ」の自己判断で発達障害が見逃されることも
「繊細さん」2020年から広まったが
-HSPという言葉はどのように広がったのですか。
HSPを「繊細さん」と表現する本が出版された後、2020年にテレビなどのマスメディアが大きく取り上げた影響が大きかったと思います。芸能人らが「HSPである」と公表し、積極的に発信したこともブームにつながったとみています。「HSPを知って今までの生きづらさの理由が分かった」という声をよく聞きますが、多くの人が感じる「生きづらさ」を説明してくれる言葉として受け入れられやすかったのではないでしょうか。
-改めてHSPとは何でしょうか。定義は。
HSPは「環境感受性」という特性が非常に高い人を指す言葉で、1996年に米国の臨床心理学者が提唱しました。同じ環境にあっても、影響の受けやすさには個人差があります。環境感受性とは「悪い環境と良い環境両方からの影響の受けやすさ」を説明する心理学の概念です。「ある」か「ない」かではなく、濃淡はありますが、全ての人が持っていますし、ここからがHSPという境目がはっきりしているものでもありません。
診断対象ではなく気質的な特性です
-「HSPと診断された」と発信する人もいます。
HSPは病気ではないため、医師による検査や診断の対象ではなく、診断する基準もありません。ですが、脳波で検査や診断ができるとうたったり、治療を勧めたりしている精神科クリニックもあり、注意が必要です。HSPには特別な才能があるとうたい、それを生かしてカウンセラーの資格取得を目指す講座も増えていますが、HSPは気質的な特性で、能力ではありません。
子どもが適切な支援につながれない
-ブームに伴う懸念点を他にも指摘しています。
学校現場に関わる心理士からは最近、発達障害の傾向が強く疑われる子どもの保護者に検査などを勧めると、「うちの子はHSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)なので、検査や支援は必要ない」と断られてしまうとの悩みをよく聞きます。集団生活になじめずに苦しい思いをしている子どもが適切な支援につながれないのは、大きな問題です。
大人でも、精神疾患や発達障害によって生活に支障が出ているのに「HSPが原因」と自己判断すると治療などの機会を失ってしまいます。
-HSPはどう活用されるべきなのでしょう。
HSPの概念を入り口に、一人一人の感受性の違いに目を向け、自分や周囲の人を理解する一助にするのは有益だと思います。HSPというラベルを貼るだけでなく、どう日常生活を工夫していったらいいか、周囲にHSP気質の人がいたらどんな配慮が必要か、といった社会的な議論につながっていってほしいと思います。
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飯村周平(いいむら・しゅうへい)
専門は発達心理学で、思春期・青年期の環境感受性が研究テーマ。創価大教育学部専任講師。科学的根拠に基づくHSPの情報を伝えるウェブサイト「Japan Sensitivity Research」を運営する。著書に「HSPブームの功罪を問う」(岩波書店)、「HSPの心理学 科学的根拠から理解する『繊細さ』と『生きづらさ』」(金子書房)など。
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