子どもに手を上げてしまう背景に「親自身の傷つき」 回復プログラムで一歩を踏み出そう
全13回で痛みを語り合う
―親の回復プログラムとはどのようなものなのでしょうか。
子どもへの虐待は、これまで人として尊重されなかった痛みや悲しみを怒りの形で子どもに爆発させている行動です。親の回復のための「MY TREEペアレンツ・プログラム」では、約10人の親たちが13回のセッションを通して、痛みを語ります。「自分は大切にされるべき人間だったんだ」と気付くことで、それまでの「自分は必要のない人間」という思い込みを手放していく作業です。
例えば「自由奔放な娘に腹が立ってしかたない」と、体罰するお母さん。「人に迷惑をかけないように生きなさい」と親から繰り返し言われ、それにとらわれてきた、と語り始めました。娘の振る舞いが、自分には許されなかったという子ども時代の悲しみを誘発し、怒りとして表れていた。プログラムを進めるにつれ「娘は自由に生きられていてよかった」と思えるようになっていきました。
親や夫から「育て方が悪い」と言われて孤立
―手を上げてしまう人たちが抱えているものとは。
親に深い傷を残している経験として多いのは、性暴力やDV(ドメスティックバイオレンス)被害です。子どものころ、常にきょうだいと比較されたり、親の期待に沿わないと怒られてばかりだった条件付きの愛のダメージも大きいです。
虐待の背景には、子どもが一晩中泣いてばかり、感覚過敏、激しい多動性など、強い特性がある場合もあります。親や夫に「育て方が悪い」と言われて孤立し、思わず手を上げてしまった母親は少なくない。
行政の親支援の中には、子育てのスキルを教えようとするものもありますが、その前に親自身の傷つきをどうするかに目を向けなくてはいけません。
かわいいときも、かわいくないときもある
―子どもへの接し方に悩む親に伝えたいことは。
今、子どもへの暴言・暴力があったとしても、変わりたいと強く願う人は必ず変われます。最近は、自分の子だからかわいいはずなのに「自分は子どもを愛せない」と悩む人も多い。でも、子どもはかわいいときもあるし、かわいくないときもある。自分の気持ちを認め、許して、ケアしていく。それが回復への第一歩です。
親の回復を目指す「MY TREEペアレンツ・プログラム」
虐待防止の専門職を養成するエンパワメント・センター主宰の森田ゆりさん=大阪府高槻市=が開発。2001年の開始以降、全国で実施され約1300人が参加。全13回で感情のコントロールや子どもとの向き合い方を学ぶ。無料。実施先の情報などは一般社団法人MY TREEのホームページで。
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