死産でも産休は取れるのに 認知されない制度、理解されないつらさ 出産予定日だった日も仕事で…
赤ちゃんをなくして 流産・死産後の支援(後編)
妊娠・出産した働く女性の5人に1人
5人に1人。妊娠・出産した働く女性のうち、流産を経験した人の割合だ。全労連の2020年の調査によると、2015年以降の2571人のうち、流産した人は569人に上った。
働いている女性が、死産、すなわち妊娠4カ月以降の胎児を亡くした場合、8週間の産後休業(産休)が労働基準法などで定められている。だが「制度はあっても知られていない」。東京都の会社員、星野よしみさん(37)は訴える。
星野さんは2016~2019年に3度の流産・死産を経験。「私も上司も初め、死産後に産休が取れることを知らず、産後1カ月の健診で医師からOKが出たら職場に復帰するつもりだった。でも心は会社に行きたくなくて、いつ戻るかやきもきしていた」と振り返る。
後に産休が取れると分かり、2カ月休んで復帰したが、仕事が楽しめなくなり「なんで頑張れないんだろう」と悩んだ。出産予定日だった日は働きながら、「本当なら赤ちゃんを抱いていたのに」とつらさに耐えきれなくなった。流産・死産の後の職場復帰への準備や心の持ちようなどについて情報を探したが、見つけられなかった。
職場復帰の悩み 上司に相談できず
その後、死産の経験がある横浜市の会社員藤川なおさん(39)と知り合い、流産・死産などを経験した働く女性の支援団体「iKizuku(イキヅク)」を昨年立ち上げた。12月には、働きながら流産・死産、あるいは生後すぐに赤ちゃんを亡くした女性にアンケートを実施し、のべ271人から回答を得た。
妊娠4カ月以降に赤ちゃんを亡くした人のうち15.8%が産休を取得しておらず、制度を知らない人が多かったと判明。妊娠4カ月未満の流産では、16.8%が当日、38.9%が2、3日以内に復帰していた。
また、91.5%の人に精神的な影響があり、身体的な影響を受けた人も57.6%。心療内科などに通院、服薬した人は60人で、流産や死産を機に退職した人も28人いた。ほぼ全員が職場復帰時に、回復状況や周囲の反応などの悩みを抱えていたが、上司らへの相談は6割が「できなかった」「しなかった」と答えた。
精神的な回復状況 | 79.3% |
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次の妊娠・出産 | 73.1% |
周囲の反応への不安 | 56.5% |
身体的な回復状況 | 49.4% |
自分の仕事の成果への不安 | 45.4% |
復職するタイミング | 39.5% |
復職せずに辞めるかどうか | 29.2% |
今後のキャリア | 24.4% |
「育児と仕事の両立」から抜け落ちて
藤川さん自身、5年前に死産後、産休を経て職場復帰したものの10日後にうつ病と診断され、3カ月休職した。「心身のダメージが大きいとの認識が周囲にも自分にもなく、赤ちゃんがいないから産後すぐの職場復帰を求められ、無理をしてしまう」と語る。
独自の支援制度を設けている企業もある。アステラス製薬(東京)は、女性活躍のため、妊娠4カ月未満の流産による療養が必要な場合、2週間~3カ月の休暇制度を導入している。ただ、そういった職場はまだ少数だ。
iKizukuは今、悩みを打ち明け合うオンラインの座談会を月に1度開催。産休などの制度や相談窓口の情報、職場復帰のポイントなどをまとめたハンドブックや、パパの経験談、企業に向けた情報などもiKizukuのホームページで公開している。
「育児と仕事の両立支援は進んでいるが、無事に生まれなかった場合は抜け落ち、本人が必死に情報を調べているのが現状」と星野さん。藤川さんも訴える。「本人だけでは解決できない。職場や社会も支援が必要だと知り、対応してほしい」
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