〈坂本美雨さんの子育て日記〉56・自分だけ魔法が使えたら?
『ミラベルと魔法だらけの家』を見て
今年は歌い始めて25周年になる。昔を振り返る機会も多く、18歳の頃に主題歌を歌った1999年の映画『鉄道員(ぽっぽや)』を娘と一緒に見た。北の果ての小さな駅のホームに立つ、主演高倉健さんのぽっぽやとしての真っすぐすぎる姿。そこに出てくる女の子が、娘と同じ6歳なのだった。今度小学生なの!というセリフに、わたしも!と娘が隣で目を輝かす。並んでこのシーンを見る日が来ると思わなかったなぁ。
近頃はディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』が娘のお気に入り。年末に映画館で2回、その後配信で繰り返し見ている。ある晩お風呂の中で唐突に「あのさ、反対なんだよ」と話しだした。めんくらっていると、「(『アナと雪の女王』に出てくる)エルサとミラベルは、反対なの。エルサは一人だけ魔法があるでしょ。ミラベルは一人だけ魔法がないの」。おお…それはすごい考察だね。どっちも最初はひとりぼっちでつらい思いをしたよね、などと話す。
人の役に立ちたい、という欲求の源は
どっちか選ばなきゃいけなかったらどうするか、聞いてみる。ママは?と聞かれたので、直感的に、ひとりだけ魔法があるほう、と答える。しばらく考えて彼女は「○○ちゃんも、ひとりだけ魔法があるほう。人の役に立てる魔法かわからないけど、もしそうだったら人を喜ばせたいから」と答えたので、内心ひっくり返ってしまった。な、なんて尊い気持ち! ちなみに、動物と話せるとか傷を治せる魔法がいいらしい(それってドリトル先生…)。
えー、傷治せたらすごいけど、友達に最初はそんな力こわい!って思われるかもよ、といじわるを言ってみる。それでもやる、と言うので、「まぁ、友達もいつかはわかってくれるよね」と、変ななぐさめ。この子の、人の役に立ちたいという欲求はどこから来ているんだろう。イコール、認められたい、存在価値を確かめる行為なのかもしれない。と思うと、切ない気持ちもよぎる。人の役に立とうと思わなくたって、あなたは息してるだけで愛!かわいい!すてき!と伝えたい。
でも、その心持ちは客観的に人として尊敬する。なのに、照れ隠しなのか、この優しさが伝わりづらいような言動をわざととったりするので、非常にもったいない、これから友人関係大変かもなぁと思ったり。誰もが、本当にアンバランスだ。でもきっと、見抜いてくれる理解者は現れるはずだ。そう信じている。 (ミュージシャン)
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