〈坂本美雨さんの子育て日記〉63・引っ越しを前に思う 娘の「HOME」を作りたい

直島でのライブでご一緒した福島節さんと渚ちゃんと

男木島と直島 おおらかな子育て

 新学期と共に、今年一の繁忙期。ツアーやイベントでさまざまな土地を訪れる機会に恵まれている。9月頭の香川県は直島(なおしま)でのライブには、娘に会わせたい友人も多く、一緒に行くことにした。高松に着いてすぐ港に直行し、すでにただいま!という気持ち。

 まずはフェリーで男木島(おぎじま)へ、カフェを営むダモンテ一家を3年半ぶりに訪ねた。初めて会った時にまだ赤ちゃんだった長男はおいしいものを人と分かち合うのが大好きなお兄ちゃんになっていた。自分たちで育てている鶏の産んだ卵を食べ、お父さんの焼いたパンを食べる。1歳の次男は私のお皿からシナモンロールを奪って手をベタベタにして豪快に食べる。男木島に子どもは数人しかいないから、道ゆけばおじいちゃんおばあちゃんたちに声をかけられめでられている。島に無いものはたくさんある、けれど、不足しているようには見えない。そしてこんなにチーム感のある家族にもあまり出会うことがない。

 数時間お茶をして、いったん船で高松に帰り、また乗り換えて直島へ。今回のライブを企画してくれた直島に住むミュージシャンの福島節さんファミリーは、移住してここに家を建てた。奥さまのマキさんが、東京での子育てに行き詰まっていた時にここだ!と閃(ひらめ)き、「わたし直島に住みますので!」と、もう決定したこととして、プレゼンをしたらしい(笑)。おおらかな子育てが本当に肌に合っていると話し、今では直島のカルチャーを率いる存在になっている。

この島を選びとった、という迫力

 駆け足で説明してしまったけれど、ここで出会った家族たちからは、この島に住むことを選びとった、という迫力を感じる。無数の人生の選択肢の中から、今の暮らしを力強く選んだのだ。だからこそ、その中で得られることを最大限に吸収し、自分の能力を最大限に差し出している。そして家族というチームでそれを全力でやっている。そんな友人たちと過ごすと、さて自分は…と考えさせられる。

 なんとなく今まで、東京を離れられずにここまで来てしまったという気持ちがどこかにあったけれど、あと数日で引っ越しを控えている今(近所ではあるのだけど)、新しい東京での暮らしを選んだのだ、と改めて自覚している。ここを、娘が成長していくなかでの「HOME」にしたい。ずっとふらふら旅はするけれど、彼女のセーフティーゾーンを作りたい、と、はじめての火が心に生まれている。(ミュージシャン)