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〈坂本美雨さんの子育て日記〉22・娘の記憶のポケット

  (2018年7月13日付 東京新聞朝刊)

坂本美雨さんの子育て日記

「おうまさん」にも慣れてきて余裕のキメ顔です(笑)

2人の間に起きたこと

 「寝てるときさぁ、ママがさぁ、エーンエンって泣いてるコ、だいじょうぶかなって言ってあげたんだよね」。今朝娘が突然こんなことを言ってきた。娘の記憶のポケットには、まだ時系列など関係なくいろんな記憶が自由に放り込まれているようで、引き出され方も自由自在。かなり前のことが「こないだ」や「昨日」になったりするので、娘がこうして過去のエピソードを言うとき、私はものすごいスピードで脳みそを働かせて記憶をたどる。シナプスが火花を散らすような感覚。いつも映画の中のフラッシュバックシーンのようだなと思う。

 彼女が言ってくれなければ忘れ去られていたはずの出来事を、こうして「2人の間に起きたこと」としてよみがえらせてくれるのはとても不思議な感覚だ。そして、思いがけないことが、彼女の中に重要な出来事として残っていたと知ることもできる。

 今朝彼女が言ったエピソードはすぐに思い当たった。1カ月ほど前だろうか、彼女を寝付かせている時、どこからか赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。マンションの上の階に住んでいる子の声ではない気がした。泣き声は珍しくはないけれど、激しく、長かったので少し気になり、まだ寝付いていない娘に「誰かおともだちが泣いてるね。ママ、ちょっと見てきてもいい?」と話し、様子をうかがいに外に出た。そのうちに泣き声はおさまったのでホッとして娘に寄り添いに戻ると、彼女も「もう泣いてない?」と見知らぬ赤ちゃんを思っていた。

目を背けない

 ふと考える。もし泣き声がおさまらなかったら…。怒鳴り声が聞こえたら? どうしていただろう。その家をピンポンしてみる勇気はあっただろうか。自分の暮らす地域で5歳の女の子の虐待死が起きた。救えた命が手の届くところで消えていったことが悔しくてどうしようもなかった。

 目を背けるのはもう終わりにしようと、同じ思いの仲間たちと「こどものいのちはこどものもの」というチームをつくった。手探りだけれど、自分たちのできることをしていこうと思っている。国レベルで動くことは必要不可欠なこと。だけれど、本当に助けが必要な人は、助けを求めに来られないことがほとんどだ。そんな存在を見つけられるのは、物理的に近くにいる人なんじゃないだろうか。すぐそばにいる人に、声をかけたい、手を伸ばしていきたい、と私は思う。勇気がいることだけど。(ミュージシャン)