〈中倉彰子さんの子育て日記〉52・一歩一歩、覚えてね

(2016年3月10日付 東京新聞朝刊)

絵本を出版、キャラクターは将棋の駒

 このたび、「しょうぎのくにのだいぼうけん」(講談社)という絵本を出版しました。完成までには、企画から2年かかりました。まずは構想を練るために、絵本をたくさん読もうと子どもたちと図書館に通いまくりました。子どもたちには、好きな本には五つ星、いまひとつの本には一つ星をつけてもらいました。すると、私自身が五つ星をつけた本と、子どもの選択は全然一致しないんです。

 下絵ができた段階で、子どもたちに読み聞かせをして、反応を見ました。「わーカワイー」。「えーなんでそうなっちゃうのー?」「それ、おかしいよ」なんて厳しい意見もありました。子ども目線で面白い!と思う物語を書く上で、やはり子どもの率直な意見が、1番参考になりました。

 物語は8種類の将棋の駒がキャラクターとなり、冒険をしながら穴熊の国の王様に奪われた宝物「玉(ぎょく)」を奪い返しに行くお話です。将棋を知っている方は、「あ、これは将棋のルールのことかな?」と分かるはず。もちろん、将棋はまったく初めて、というママさんやお子さんも楽しめる内容になっています。

 挿絵を担当してくれたのは、子育て中のフリーアナウンサーの福山知沙さん。絵を描き始めたころはまだハイハイしていた福山さんの長男は、今では走り回れるほど成長したとのことです。「歩(ふ)」という駒のキャラクター「ふうくん」は、息子さんをモデルに描いたそう。ふうくんのぐずる様子やスヤスヤ眠っている表情は、ママさんならではの視点で、「分かる分かる!」と共感します。

「読み聞かせ、恥ずかしかったよ」

 先月、長男シン(6つ)の通う保育園の年長組さんのクラスに将棋を教えに行き、さっそく、できたてホヤホヤの絵本の読み聞かせをしました。読み進めているうちに、私も調子が出てきて、アドリブを入れちゃったりして。反応はまずまず、みんなの楽しそうな顔を見て、ホッとしました。絵本に出てくる駒のキャラクターを使って、将棋のルールも説明しました。

 保育園から帰ったシンに、期待を込めて感想を聞いてみると、「ママ、読み聞かせ恥ずかしかったよ」。え~? 「あれは、赤ちゃん組への話し方だよ。ぼくたちは、さくら組なんだから」。あらら、ちょっとノリノリで話しすぎたのね。確かにみんな、四月からはもう小学生だものね。成長を感じるとともに、ちょっと寂しさも感じました。(プロ棋士)