小学校で英語をどう教える? 「5、6年の担任やりたくない」正式教科化で悩む教員も
担任+英語教諭のチームティーチングも
2020年度から、小学5、6年生の英語が初めて成績の付く正式な教科になる。文部科学省は急速なグローバル化に対応するため早期からの英語教育が必要とするが、現状では小学校に英語を専門とする教員は少なく、どう教えるかが課題。検定に合格した各教科書は、映像や音声教材を充実させて教員の負担軽減に工夫を凝らすが、英語教育の専門家からは「準備不足では」と懸念も出ている。
「Let’s check the answer」。東京都品川区立芳水小の6年1組で3月、行われた英語の授業。英語専門の吉田優子教諭(54)がクラス全体に答え合わせを促し、担任の佐々木哲通教諭(39)が一人一人を「Good job!(よくできた)」などと励ました。
国の指定を受け、1年生から英語の授業を行う同区の小学校では、全クラスで担任と英語教諭が一緒に教えるチームティーチングを実践。国語が専門の佐々木教諭は「とても助かる。教科化も心配ない」と言いきる。斎藤早苗校長は「今の時代、早期導入は絶対に必要。低学年から英語に触れることで耳が良くなる」と重要性を語る。
しかし、全国に約2万校ある公立小の全てで品川区のように充実した体制が取れるわけではなく、担任1人で授業をする学校もある。文科省の調査では、小学校教員のうち中学や高校の英語免許を持つ人は約5%(17年度)。「英語が苦手」と答えた教員は67.3%に上った(14年度)。
今春から小学校教員になるための教職課程で英語の指導法が必修になるが、教育関係者によると、中高年の教員を中心に「英語を教えられないから5、6年の担任をやりたくない」と悩む人が増えているという。
音声利用で英語使わなくても授業が成立
不安を解消するため、20年度から使う教科書を作った各社は、指導用の音声教材の開発に力を注いだ。各単元の最初に見開きで大きな絵や写真を見せ、教員がパソコンなどからネイティブスピーカーによる会話や場面説明の音声を流す。「Once again(もう1回)」など指導に必要なフレーズも含まれ、教員が英語を使わなくても授業が成立するようにした教材もある。
教科書会社「学校図書」の担当者は「(年間の英語授業時間の)70時間のうち60時間くらいは音声教材でカバーできる」と自信を見せる。
教科化で「嫌い」招く恐れ
文科省がグローバル化への対応として英語教育の低年齢化を進めることへ、懐疑的な声もある。東京大の阿部公彦(まさひこ)教授(英米文学)は「実際に英語が仕事で必要な人は1~2割。本当に国際競争力が上がるのか」と疑問視する。
5、6年生で英語を教科にするのと同時に、これまで各校の判断だった3、4年生で必修化する。授業では特に「話す」「聞く」に力を入れ、高校卒業時には英語でコミュニケーションができるようにする-という構想だ。「読み書きできてもしゃべれない」という日本の英語教育への伝統的な批判を払拭(ふっしょく)する狙いだ。
これに対し、阿部教授は「教科化は逆効果では。成績が付くと、間違えてもいいから積極的に話すという雰囲気は萎縮する」と首をかしげる。教科化前の今でさえ、英語嫌いが生まれていると指摘し、「現状の授業を検証しないまま低年齢化を進めるのは危険。少なくとも、教員の育成が不十分なうちに行うのは拙速だ」と危惧する。
また、母語の能力が十分育っていない時期に外国語を学ぶ影響を案じる見方も。明海大の大津由紀雄教授(認知科学)は「子どもの思考力が落ちており、基盤となる日本語をしっかり形成する方が先。話せても中身のない英語になる」と話している。
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