教育虐待につながる「3つの言葉」使っていませんか 強まる中学受験の重圧 親が子どもを追いつめる
「中学受験は親の受験」…親へのプレッシャーが強まっている
-教育虐待とはどんな状態でしょうか。
子どもが受け入れられる限度を超えているのに、たたいたり、暴言を放ったり、無視したりなどの精神的、肉体的な苦痛を与えて勉強させることを「教育虐待」と呼んでいます。親が受験や進学について子ども本人の意思を無視したり、軽視していることが前提にあります。「ここからは教育虐待」という線引きをしたら、そこまではやっていいということになってしまうので、明確な基準はありません。
近年は、特に中学受験で「親の受験である」「親が頑張らないとダメ」などと言われるようになり、親へのプレッシャーが強まっています。「子どもの成績が悪いのは私のせい」と思い詰めている親も多い。先行きの不透明さが増す中、親が「大丈夫?本当にそれで大丈夫?」と、子どもに不安を投影しているように見えます。中学受験での教育虐待が増えているとすれば、そのせいだと思います。
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子どもへのイライラは、親が自分の未熟さに気づくチャンス
-自覚のない親も多いと思います。親自身が気づくポイントはありますか。
子どもを見ていれば、SOSを発していますよ。5時間勉強をしても大丈夫な子もいれば、1時間でも苦しくなる子がいます。
具体的には、過酷な受験勉強の中でも子どもが元気かどうかを見ることです。1日の勉強が終わった時に「ああ、終わったぁ~」という達成感を味わえているか。苦しくても、充実していれば目は輝きます。目に力が無いのはまずいですね。
そもそも、親が子どもに対してイライラしたり、モヤモヤしたりするのは、親が子どもに対して「こうあるべき」「こうなってほしい」と求めるばかりで、子どもを1人の人間として尊重する意識が低いからです。
イライラを解消したい時は、子どもを変えようとするのではなくて、自分を変えるべきです。今の子どもの振るまい、成績はそのままだとして、自分の中のイライラやモヤモヤを解消するにはどうしたらいいかを考えてみてください。結局のところ、親自身が自分の中の未熟さに気づき、向き合うしかないのです。そうやって親は、親として成長するのだと思います。
もちろん、教育虐待の自覚があり、「止められない」という場合は、児童相談所に相談したり、専門の心理カウンセラーに頼ることも大切です。教育虐待は子どもの人権侵害ですから、一刻も早くやめるべきです。第一志望の学校に入ってもチャラにはなりません。子どもにとっては一生残る傷なのです。
「あなたのため」「いい教育を」「選択肢を増やしてあげたい」
-なぜ、子どもに過度に求めてしまうのでしょう。
理由は複合的だと思います。親自身が「これが正解」という教育を受けてきたので、子育てにも正解があると思ってしまう。情報をいっぱい集めて、その「正解」に子どもを合わせなくてはと思ってしまうのです。親自身が幼いころに「あなたはダメだ」と言われ続けて育ち、自己否定するくせがついていると、それを子どもに投影してしまう場合もあるでしょう。
「あなたのため」「いい教育を受けさせたい」「選択肢を増やしてあげたい」という言葉を日常的に使っていませんか。そういう人には気をつけてほしいな、と思います。
「いい教育」と言っているのは、どんな教育なのでしょう。「いい教育を受けさせるために受験させる」などと言う人がいます。でも、偏差値の差や学校の違いだけが教育の質にかかわるわけではありません。親の窮屈な人生観によって、子どもを追い詰めてしまうことを自覚する必要があります。
「選択肢を増やす」というのも要注意です。「選択肢を広げるために東大にいかせたい」と言う親にも出会ってきましたが、そうでしょうか。「頑張って東大に入ったのだから、年収のいい職業に」「社会的地位の高い仕事を」と、結局、限られた範囲の中から将来を決めつけてしまう場合が多いと思います。
感情的になる=「溺れている」 いったん落ち着いてみよう
-おおたさんもお子さんがいますが、イライラしないのでしょうか。
感情的になって怒ってしまう時はありますよ。そういう時は、「自分は今、溺れている」と思うことにしています。溺れている時は、口を閉じて、手足をばたつかせるのをやめますよね。いったんフリーズする。少しでも間を置きましょう。
あと、抽象的な言い方になりますが、教育虐待をしてしまっている、と思ったら、子どものふがいなく見える部分も含め、ありのままの子どもを愛おしいと思う気持ちを思いだしてほしい。「お勉強がよくできる、よその子と交換しますか」と言われたら、嫌ですよね。
子どもに「どんなあなたでも、私にとってはかけがえのない存在。ダメなところも含めてあなたのことを愛している」と伝え、安心感を与えてほしい。親だって不完全なのですから。安心感がある時に子どもは一番のパフォーマンスを発揮します。
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-配偶者が教育虐待をしている場合はどうすればいいでしょうか。
もし、目の前で教育虐待が行われていたら、僕は「それは傷つけすぎている」「もう止めて」と言って、子どもの前に立ち、盾になるべきだと思います。深刻な場合は、児童相談所など専門機関に相談することも必要でしょう。
微妙だなという時でも、少なくとも子どもにとっての安全地帯になってあげてください。子どもがつらそうにしていると思ったら、まずは一緒にいて話を聞いてあげたり、楽しい時間を過ごしたりして様子を見ます。
親が教えるべきことは?「すべての人の人生に価値がある」
-親にとっては子どもの教育はどうしても悩んでしまうテーマです。今、悩んでいる親にメッセージを。
受験など子どもの人生の重大な出来事を前に、最初から適切に接することができる親なんてなかなかいません。傷つけたかもしれないと思ったら、自分の未熟さに向き合い、そこから一歩ずつ親として成長する心意気が大事だと思います。
教育虐待をしてしまう人たちは、「こうして生きていかなければ」という不安が強い傾向があると感じています。むしろ、親がすべきことは、どんな学歴でもどんな職業でも、すべての人の人生がかけがえのないもので、価値のあるものだと教えることでしょう。親自身が自分の人生に誇りを持ち、自由に生きられたら、子どもに強いることもなくなっていくのではないかと思います。
教育虐待とは
厚生労働省によると、教育のためという理由でも言葉での脅しや無視、きょうだい間での差別的扱いは「心理的虐待」にあたる可能性がある。おおたとしまささんの著書「ルポ教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち」(ディスカヴァー携書)には、子どもへの影響などが詳しく書かれている。
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