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「偏差値を上げないと殺すぞ」中学受験の息子に包丁を突きつけた… 「教育虐待」悔やむ父の告白

西川正志 (2019年4月20日付 東京新聞朝刊)
 行きすぎた教育で子どもを追い詰めてしまったと悔やむ父親がいる。中学受験に向け、成績が悪いと怒鳴りつけたり、暴力をふるったりした。こうした行為を、専門家は「教育虐待」と呼ぶ。この父親は「息子のためだと信じていた。支配することで、変えられると思っていた」と振り返る。

長男(手前)を何度もたたいた手を握り締める小園達也さん(仮名=奥)。「何でも一緒にやる兄弟のような親子になりたい」と話している=神奈川県内で

反抗に激高、イスを蹴り…平日3~4時間、休日は8時間

 神奈川県で会社を経営する小園達也さん(43)=仮名=は、長男晃君(12)=同=と妻の3人暮らし。晃君が小学3年になると、塾に通わせた。自らも中学受験を経験した小園さん。「世の中を動かす人間になれ」と両親の期待を受けて育った。同じように息子にも中学受験をさせようと考えた。

 一方で「仕事をする背中を見せるのが理想の父親」との思いもあり、家庭学習は妻に任せきりだった。晃君の成績は思うように伸びず、いら立ちは募った。

 晃君が小学4年の夏。「勉強をしなさい」という妻に、晃君が反抗したことに激高し、イスを蹴り飛ばした。「俺は成績が伸びたのに」。自ら深夜まで勉強に付き添う日々が始まった。

 平日は3~4時間、休日は8時間、勉強を強制。自ら算数の解説も作った。問題を解けないと「なぜできない」としかり、頭を強くたたいた。集中力が途切れると晃君の右手に爪を立て、皮膚をえぐった。「偏差値を上げないと殺すぞ」と脅し、包丁を突きつけた。

不登校になったのは「自分のせいだ」気づいて涙の謝罪

 晃君は体調を崩した。腹痛を訴え、学校に遅れるなど生活リズムも乱れた。小学5年の秋のある朝、「学校に行けない」とこぼした。生気を失った表情。小園さんは、初めて自分のせいだと気付き、涙ながらに「悪かった」と謝った。

 その後は、親子で話し合う時間を取り、距離を縮めようと努めた。妻から勧められ、虐待加害者の更生に取り組むNPO「女性・人権支援センター ステップ」(横浜市)に家族で通うようになり、面談やグループワークを重ねた。

「こんな勉強がしたかった」間違えても笑い合える関係に

 昨夏、親子でサーフィンを始めた。ボードに乗れない小園さんを見て、晃君は大笑いした。冬になると、「勉強を教えて」と晃君から頼んでくるようになった。一緒に問題を解き、間違えても笑い合えた。

 「こんな勉強がしたかった」と晃君。生活リズムも取り戻し始め、卒業間際の今年3月、学校にも通えるようになった。

 晃君は地元の公立中学への進学を希望し、中学受験はしなかった。新たな生活に踏み出した今、小園さんはこう願っている。「息子は自分の力で、よくここまで盛り返してくれた。中学では思い切り好きなことを楽しんでほしい」

「子どものため」善意のせいで、親は虐待だと気付かない

 「教育虐待」という言葉は2011年の「日本子ども虐待防止学会」で報告された比較的新しい概念で、専門家によって定義に多少の違いがある。青山学院大の古荘純一教授(小児精神医学)は「教育やしつけを通し、親が子どもに有害なことをすること」と説く。

 厚生労働省によると、04年1月~17年4月に起きた子どもの虐待死のうち、しつけや教育を理由に亡くなったのは85人。動機が明らかな中では、保護を怠ったケースに次いで2番目に多い。古荘教授は、昨年3月に東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時5つ=が虐待死した事件も「あしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして」などと結愛ちゃんが書いたメモが見つかったことなどから「根幹は教育虐待がある」とみる。

 教育虐待を学会で発表した武蔵大の武田信子教授(教育心理学)は「子どもの受忍限度を超えて勉強させること」と説明。「子どものために」という善意で、虐待とは思っていないことも多いという。

 武田教授は「子どもは、親とは違う考え方の大人と触れ合うことが大切。親自身も、ストレスを抱えて行き詰まっていることに気付くことが必要だ」とする。

 「女性・人権支援センター ステップ」の栗原加代美理事長は、「親がかなえられなかった夢や理想を押しつけて虐待に発展することもあり、どの家庭でも起こり得る」とし、「子どもの能力は千差万別。その子の能力を伸ばすようにしてほしい」と呼び掛けている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年4月20日