<読み書き困難㊤>音読「つっかえる」問題行動なし…でも、静かに困ってる
小学1年で「自分は人と違う」
「自分は人と違う」。長野市に住む大谷梨華(りか)さん(16)が、初めてそう意識したのは小学1年生の時だった。
国語の教科書が、すらすら読めない。クラスのみんなは、つっかえずに読めるので、音読の順番が来ると困っていた。単語としてのまとまりが分からず、一字一字読んでしまうので、声に出すとたどたどしく、文章の意味もつかめない。特に「ゃ」「ゅ」「ょ」の違いが分からず、「しゃちょう」と「しゅちょう」などは文字でも音でも区別できない。九九も「4(し)」と「7(しち)」の音の区別が難しく、うまく覚えられなかった。
周囲が気付いたのは小学4年生の時だった。担任が「授業のペースについていけていない」と、特別支援教員の山崎幸子(ゆきこ)さん(53)に相談したのだ。
山崎さんは国語と算数を大谷さんに教えるうち、とつとつとした読み方で、間違いも多いことに気付いた。診断では知能に問題はなかった。学習障害の1つ、「読み書き困難」だった。
周囲には「普通の子」と同じ 気付くのに時間がかかる
だが、周囲はなぜ気付くのに時間がかかったのか。
外見上の特徴もなく、困惑が周囲に分かりにくかったためだ。山崎さんは「音読も2、3度目には読めるのが通例。本人は『読みにくい』と感じても、周りには普通の子と同じに見える」と指摘する。教員の理解も低かった。「離席や大声など問題行動を起こすわけじゃない。でも、静かに困ってるんです」
デジタル教科書で世界が変わる 「先生、読めるよ!」
大谷さんが6年生に上がって間もなく、転機があった。山崎さんが支援教材「デジタル教科書」を知る。「デイジー教科書」という名で日本障害者リハビリテーション協会(東京都新宿区)が、2008年に、小中学生向けに無償提供を始めた。個人でも、学校や自治体でも申し込める。
ソフトを入れたタブレット端末などで利用。デジタル化した教科書を映し、音声で読み上げる教材だ。文字の大きさや色、背景の色が選べ、読んでいる部分を色で示せる=写真(下)。
デジタル教科書を初めて手にした日、大谷さんは走って山崎さんに知らせにきた。「読めるよ! 先生、教科書が読めるよ!」
「世界が変わったみたいだった」。大谷さんは振り返る。文章を読む楽しさを知り、さらに内容が難しい説明文も読みこなし、九九も克服した。
みるみる自信をつけ表情が明るくなった大谷さんの姿を見て、山崎さんは確信した。「デジタル教科書があれば、この子はやっていける」。しかし、中学に進学後、また壁にぶつかる。
読み書き困難
学習障害(LD)の1つ。通常の会話や論理的思考に問題はないが、文字の読み書きがうまくできない。脳の情報処理に先天的な問題があるとされ、症状は人によって異なる。文字を音に変換して読んだり、単語のまとまりを理解したりするのを苦にする場合や、文字がぼやけたり、ゆがんだりして見える場合がある。読字障害、難読症、ディスレクシアとも呼ばれる。
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