<読み書き困難㊤>音読「つっかえる」問題行動なし…でも、静かに困ってる

(2018年7月24日付 東京新聞朝刊)
 読み書き困難という障害がある。認知度が低く、当事者が周囲の理解や協力を得にくい。この障害で学びに苦労してきた高等専修学校1年生(高校1年に相当)の女子生徒と、彼女を小学校時代から支える特別支援教員の歩みをたどる。

小学1年で「自分は人と違う」

 「自分は人と違う」。長野市に住む大谷梨華(りか)さん(16)が、初めてそう意識したのは小学1年生の時だった。

 国語の教科書が、すらすら読めない。クラスのみんなは、つっかえずに読めるので、音読の順番が来ると困っていた。単語としてのまとまりが分からず、一字一字読んでしまうので、声に出すとたどたどしく、文章の意味もつかめない。特に「ゃ」「ゅ」「ょ」の違いが分からず、「しゃちょう」と「しゅちょう」などは文字でも音でも区別できない。九九も「4(し)」と「7(しち)」の音の区別が難しく、うまく覚えられなかった。

 周囲が気付いたのは小学4年生の時だった。担任が「授業のペースについていけていない」と、特別支援教員の山崎幸子(ゆきこ)さん(53)に相談したのだ。

 山崎さんは国語と算数を大谷さんに教えるうち、とつとつとした読み方で、間違いも多いことに気付いた。診断では知能に問題はなかった。学習障害の1つ、「読み書き困難」だった。

小学6年でデジタル教科書に出合った大谷梨華さんは、今はデジタル図書での読書も楽しんでいる=長野市で

周囲には「普通の子」と同じ 気付くのに時間がかかる

 だが、周囲はなぜ気付くのに時間がかかったのか。

 外見上の特徴もなく、困惑が周囲に分かりにくかったためだ。山崎さんは「音読も2、3度目には読めるのが通例。本人は『読みにくい』と感じても、周りには普通の子と同じに見える」と指摘する。教員の理解も低かった。「離席や大声など問題行動を起こすわけじゃない。でも、静かに困ってるんです」

デジタル教科書で世界が変わる 「先生、読めるよ!」

 大谷さんが6年生に上がって間もなく、転機があった。山崎さんが支援教材「デジタル教科書」を知る。「デイジー教科書」という名で日本障害者リハビリテーション協会(東京都新宿区)が、2008年に、小中学生向けに無償提供を始めた。個人でも、学校や自治体でも申し込める。

 ソフトを入れたタブレット端末などで利用。デジタル化した教科書を映し、音声で読み上げる教材だ。文字の大きさや色、背景の色が選べ、読んでいる部分を色で示せる=写真(下)。

 デジタル教科書を初めて手にした日、大谷さんは走って山崎さんに知らせにきた。「読めるよ! 先生、教科書が読めるよ!」

 「世界が変わったみたいだった」。大谷さんは振り返る。文章を読む楽しさを知り、さらに内容が難しい説明文も読みこなし、九九も克服した。

 みるみる自信をつけ表情が明るくなった大谷さんの姿を見て、山崎さんは確信した。「デジタル教科書があれば、この子はやっていける」。しかし、中学に進学後、また壁にぶつかる。

読み書き困難

 学習障害(LD)の1つ。通常の会話や論理的思考に問題はないが、文字の読み書きがうまくできない。脳の情報処理に先天的な問題があるとされ、症状は人によって異なる。文字を音に変換して読んだり、単語のまとまりを理解したりするのを苦にする場合や、文字がぼやけたり、ゆがんだりして見える場合がある。読字障害、難読症、ディスレクシアとも呼ばれる。

コメント

  • デジタル教科書なら読めるとはどういうことでしょうか。もう少し詳しく教えてください。 1)音声なら耳に、脳に入りやすいので教科書が理解できるということでしょうか。 2)一度字を見ながら音声を聞くと二
     
  • 理解のある方に巡り合い、支援してもらえている様子を伺うと羨ましい気持ちになります。中3の息子(15歳)も、小学校4年時に個人塾の先生にデイスレクシアだと思いますと言われた時の衝撃。小さい時から言葉が遅