【子どもの視力を守るには・上】裸眼1.0未満が過去最多 緑内障など将来のリスク軽減に小児期がカギ

 佐橋大 (2024年10月8日付 東京新聞朝刊)
 スマートフォンなどのデジタル機器が身近になる中、子どもの視力低下が進んでいる。愛知県大府市では、その流れを食い止めようと取り組みが進む。小児期の近視予防は、成人後の眼病予防につながるという。

目の出前講座で、眼球の大きさの質問に答える子どもたち=愛知県大府市の大東小で(ロート製薬提供)

子どもの近視予防プロジェクト

 文部科学省の学校保健統計調査(2022年度)によると、裸眼視力1.0未満の小学生は37.88%、中学生は61.23%と、過去最多になった。これに対し、大府市では22年度から、ロート製薬、名古屋大などと連携し、「子どもの近視予防プロジェクト」に取り組んでいる。本年度は、市内の全9小学校を、ロート製薬の担当者らが訪れ、近視予防の大切さを伝える出前講座を1年生対象に開いたほか、眼科医による「子どもの近視予防」の講演会を11月に開く。

 プロジェクトに関わる名古屋大病院・眼科の病院助教、安田小百合さんは「小児の近視予防は、将来の重い目の病気を防ぐことになる」と、その意義を強調する。

長い「眼軸」が病気のリスクに 

 目に入った光は、目の奥にある網膜で焦点を結び、電気信号に変えられ、視神経を通じて脳に伝えられる。近視は、光が網膜の前で焦点を結び、遠くのものにピントが合わない状態。目の奥行き「眼軸」が長くなることが主な原因だ。凹レンズの眼鏡をかければ遠くにも焦点が合うが、眼軸は長いまま。これが、緑内障などさまざまな目の病気になるリスクを高める。

 眼球が前後に伸びると、網膜の組織が薄く、もろくなり、網膜が破れてはがれる網膜剝離になりやすくなる。剝離が周辺部で起きれば視野欠損、網膜の中心で物を見るのに重要な部分「黄斑」で起きると大幅な視力の低下をきたす。

 視野が欠ける緑内障は、光を網膜から脳に伝える神経節細胞が痩せていく病気。眼球内を満たす液体の圧力「眼圧」の高まりが原因として知られているが、近視が進んで網膜が引き伸ばされることも症状が進む要因に。黄斑にもろい血管が新たにでき、そこから水漏れが起きてむくみ、視細胞が働かなくなるなどの「近視性黄斑症」にもなりやすくなる。

眼軸が長くなる強度近視によって、さまざまな目の疾患の可能性が高くなることを説明する安田小百合さん

近視に効果的な予防法は研究段階 

 安田さんによると、近視の度合いを示すマイナスの値(D=ディオプトリ)が「1」大きくなるごとに、網膜剝離が30%、緑内障が21%、近視性黄斑症が58%と、それぞれなる確率が上がる。マイナス6D以上の強度近視では近視でない人に比べ、網膜剝離に22倍、緑内障に14倍、近視性黄斑症に41倍なりやすくなる。「早く近視になった人ほど、強度近視になりやすい」(安田さん)といい、まさに子どもの頃の近視予防が、目の健康を守る。

 近視は、一般的に近くを見る作業を続けることがよくないとされ、屋外で1日2時間以上活動すればリスクが減ると報告されている。ただ、進行するメカニズムは分からないことが多い。プロジェクトでは、眼軸の長さなど近視に関わる測定も予定。安田さんは「得られたデータを基に、何が近視予防に効果的か、研究を進めたい」としている。