子どもの近視が増えている 太陽光に予防効果、海外研究で実証 デジタル機器から離れて外遊びを

(2023年10月18日付 東京新聞朝刊)

外で遊ぶ子どものイラスト

 近視の子どもの割合が年々増えており、デジタル機器に触れる時間の増加が要因の一つとされる。一方、近くを見る時間が長くても、外遊びをしっかりしていれば近視の程度が軽くなることが海外の調査研究で分かってきている。海外では視力低下を防ぐ施策として屋外活動を取り入れる動きが広がっており、専門家は「日本でも教育現場の小さな取り組みから広げていくことが必要だ」と訴える。

爆発的に増加する近視 遺伝より環境

 裸眼視力が1.0未満の子どもの割合は、1979年の調査開始以降、一貫して増加傾向にある。文部科学省の2021年度学校保健統計調査では、小学校で36.87%、中学校60.66%、高校70.81%。年齢とともに上昇し、小1で約4人に1人、小3で約3人に1人、小6では約半数に上る。30年前の1991年度は小学校21.68%、中学校43.60%、高校57.54%だった。

グラフ 裸眼視力1.0未満の子どもの推移

 筑波大医学医療系の平岡孝浩准教授(眼科学)は「近視には遺伝の要素もあるが、世界的に近視が爆発的に増えていることから、今は環境要因が圧倒的に大きいと考えられる」と説明。スマートフォンなどデジタル機器の画面を見る時間の増加と外遊びの時間の減少を理由に挙げる。

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海外の近視予防の取り組みについて説明する平岡孝浩准教授=東京都千代田区で

将来、目の病気になるリスクが高まる

 平岡さんは「近視を放置すると強度近視になり、将来的に緑内障や網膜剝離、近視性黄斑症などを発症するリスクが高くなる。特に近視性黄斑症は有効な治療法がなく、失明につながりうる」と注意を促す。

 強度近視は、屈折度数(眼鏡やコンタクトレンズの度数)が「マイナス6D」を超える状態のこと。「近視の進行をできるだけ抑えるため、屋外活動を増やし、近くばかりを見ない生活に変えるといった環境要因の整備が非常に大切」と訴える。

太陽光が近視抑制 日陰でも効果あり

 近年、オーストラリアや台湾などで近視予防の研究が進み、「太陽の光を一定時間浴びることが近視の抑制に効果がある」ことが明らかになってきた。国内でも、動物実験で、近視によって薄くなるはずの網膜の外側にある脈絡膜の厚みが、太陽光に含まれるバイオレットライトを浴びることで維持されると報告されている。

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外遊び時間の増加で近視の傾向が改善された調査結果について話す四倉絵里沙特任講師

 慶応大医学部眼科学教室の四倉(よつくら)絵里沙特任講師らの調査では、外遊び時間が増えると近視の傾向が改善されるという結果が出ている。四倉さんは「外遊びのさまざまな要素のうち、目には『バイオレットライト』と呼ばれる光の波長が効いていることが分かってきている。日なただけでなく、日陰でも近視抑制に有効な光が十分目に入るので、木陰で過ごすのも効果がある」と話す。

台湾は「外で体育授業150分」義務化

 平岡さんによると、海外には子どもの近視予防を政策レベルで積極的に行う例も増えている=表。台湾では、1000ルクス以上の光を週11時間以上浴びた子どもは近視になりにくいことが分かったとし、政策として「1日2時間以上の屋外活動」を推進している。

表 海外の近視予防の取り組み 米国、台湾、中国、世界保健機関(WHO) ※平岡孝浩准教授への取材に基づいて作成

 平岡さんは「日本でも政策として屋外活動の導入を進め、教育の場で浸透させるのが理想。その前段階として、体育のほか、社会科や理科にできるだけ屋外活動を取り入れるなど、自治体や学校単位でできることもある」と指摘する。

 ただ、十分な啓発や対策に結びつくまでには至っていない。ジョンソン・エンド・ジョンソンのビジョンケアカンパニー(東京)が今年5~8月、小中学校と高校の養護教諭186人を対象に実施した調査では、「近視の進行を抑制する方法として屋外活動が重要だと知っている」と答えたのは73.9%だったが、「屋外活動を積極的に取り入れるように検討・進言している」としたのは21%にとどまった。同社広報担当の小池尚子さんは「実際に啓発・導入するのはこれからという段階の学校もあり、支援を続けたい」と話す。

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