TBSアナウンサー 蓮見孝之さん 話すときは、届けたい誰かを思い浮かべる。それは祖母です

植木創太 (2022年12月11日付 東京新聞朝刊)

家族について話すTBSの蓮見孝之アナウンサー(中西祥子撮影)

2世帯同居で、おばあちゃん子に

 駆け出しのころ、先輩からよくアドバイスされたことがあります。「誰か1人のことを思い浮かべながら、届けたい人に話してみなさい」。私の場合、その「誰か」はいつも父方の祖母です。

 今年で93歳。だいぶ耳が遠くなりましたが、私のレギュラー番組は祖母の生活リズムの一部のようで、いつも視聴してくれ、一番熱心なファンです。祖母を意識するからか、知らぬ間に声を張り、ゆっくりしゃべっていることも。リアクションが大きいのもそのせいかもしれません。

 実家は2世帯同居だったので、祖父母とは生まれたころから就職して家を出るまでずっと一緒に暮らしました。2人で花き栽培を生業にしており、いつも家の横の物置小屋で、朝早くから剪定(せんてい)作業をするのが日課。祖母が聞き上手だからか、小屋には近所の人がよく顔を出し、常に井戸端会議の場になっていました。

 幼いころは、いつもその輪の中にいました。小屋にいると、祖母が冷蔵庫から炭酸飲料、机の引き出しから甘い物を出してくれたんです。いずれも母は意識的に食べさせないようにしていたようですが、祖母のところなら内緒で食べられた。当時、父は仕事、母は弟の世話が忙しい時期。祖父は厳しい人で近寄りがたく、おばあちゃん子になるのは必然でした。祖父母の軽トラックで電車の見える場所へよく連れて行ってもらいました。懐かしい思い出です。

喜ばせたくて結婚式でサプライズ

 私の結婚式では、祖母にうれし涙を流させようと、新郎の一時退場のエスコートをお願いするというサプライズを用意しました。祖父が亡くなって落ち込んでいたので元気づけたかったのです。ただ、本番は祖母の喜ぶ顔を見て、私の方が先に泣いてしまい、だいぶ恥ずかしい思いをしました。人生をダイジェストにするなら、外せないシーンかもしれません。

 祖母も父母も高齢になってきたので、最近は月1回ぐらいの頻度で実家に帰るようにしています。先日は、半日ほど三男(3つ)を実家で預かってもらいました。用事を終えて迎えに行くと、実家の西端にある祖母の部屋で、三男と仲良く並んで座っていました。テレビを見ながら「この電車見たことある」などと三男が一生懸命話すのを、祖母がただ見つめていました。年齢差90歳のお話し会。たぶん祖母は息子の言葉はほとんど聞こえていないと思いますが、その温かな様子には、孫としても父親としても、ちょっとホロッときました。

 核家族が主流になったこの時代、曽祖母を近くに感じられる経験は貴重です。3人の息子たちには、祖母が元気なうちに世代を超えて触れ合う機会をたくさん持ってもらいたいと思っています。

蓮見孝之(はすみ・のりゆき)

 1981年、さいたま市生まれ。法政大経済学部卒。2004年にTBS入社。「ひるおび」「JNNニュース」のほか、ラジオ「蓮見孝之 まとめて!土曜日」(土曜午前7時~8時45分)などを担当。高校教員、保育士の免許を持ち、教育、子育て分野の発信にも力を注いでいる。今年、イクメンオブザイヤーを受賞した。