DV加害当事者団体代表 中川瑛(えいなか)さん モラハラ加害者であることを克服 妻とは独身時代のように

(2024年11月24日付 東京新聞朝刊)

両親や妻のことなどについて話すGADHA代表の中川瑛さん(池田まみ撮影)

モラハラ家庭に生まれて

 北海道の小さな町の出身で、両親と兄2人、妹1人の6人家族。父はモラハラ(精神的DV)気質で、しばしば母を「バカ」「頭が悪い」と侮辱し、酒に酔うと特に陰湿に責めました。長兄は番長タイプで、家庭内でも外でも暴力を振るったり、物に当たったり。母は劣等感からか、成績の良かった僕に期待をかけ過干渉。そんな家庭が嫌で、浪人中に家出して関西で暮らし始めました。

 その後起業し、妻と恋愛結婚。でも、僕がつまらない嫉妬や仕事の不調から深酒し、妻に絡むようになりました。うざがられると、「おれが嫌いなのか」「離婚した方がましだ」と激高し、何時間も一方的に説教。交際中は会話が多かったのに、妻の口数が減っていきました。

泣く妻の姿を見て悟った

 共働きでしたが、妻は激務で体調を崩して退職。僕はいたわるどころか、クリエーティブな才能がある妻の作品を世に出すことに夢中になり、商品化や展覧会などのノルマを勝手に課して追い詰めました。「僕の言う通りにすれば大丈夫」とステージママ気取り。安らげるはずの家庭で日々、家事、ノルマ、夜は説教…。限界に達し、「こんなこと頼んでない」と泣く妻の姿を見て、「妻を道具にして、自分のためにやっているのでは」と雷が落ちたように悟りました。そのころの僕は深酒もひどく、依存症の相談に。「あなたにとって幸せは?」という医師の問いに「夫婦で紅茶を飲みながら話をすること」と答え、「あれ? 長らくそんな時間を持てていない」と気付かされました。

 それからハラスメントやジェンダー、心理学、哲学など多くのジャンルの書物やネットの記述を読み、「自分はモラハラ加害者」と自覚しました。殴る蹴るの暴力がなくても、相手を支配するのはDV。罪の重さは同じです。そこから断酒し、自省の日々を送るうちに、妻は僕の変化を感じ取ってくれたのでしょうか。会話や、一緒にいて楽しい時間が増えていきました。

人間関係はお互いのケア

 いま、妻とは独身時代のように会話の多い夫婦です。昨夜も午前2時ごろまで話したし、一緒に買い物や散歩に行くときも話が弾みます。お互いに嫌なことは嫌だと言えるし、譲り合うこともできる。「瑛くんは優しくなった。以前は楽しい時間と嫌な時間があったけど、今は嫌な時間がゼロ」と言ってくれる妻に、心から感謝しています。

 自分の加害に向き合うことは苦しいし、自力で変われる人は少ない。当事者らがDVに関する疑問や悩みを共有し、学び合えるコミュニティーサイトとしてGADHA(ガドハ)を立ち上げ、活動しています。人間関係とは、お互いをケアすること。妻に一方的にケアさせていた僕にとっての償いでもあります。

中川瑛 (なかがわ・えい)/ハンドルネーム『えいなか』

 1991年、北海道生まれ。2021年、GADHA(Gathering Against Doing Harm Again)を創設。オンライン交流会や学習プログラムを通じ、DV加害者の変容を支える。『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』(KADOKAWA、漫画・龍たまこ)の原作も担当。株式会社・変容資源研究所代表。