【選択的夫婦別姓が分かるQ&A⑦】同姓でないと同じお墓に入れない? 一夫多妻制を認めることになる?
【疑問11】同姓でないと同じお墓に入れなくなるのではないですか。
そんなことはありません。姓が異なると同じお墓に入れないという法律はありません。「墓地、埋葬等に関する法律」では、「墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは、正当の理由がなければこれを拒んではならない」と定めています。同じ墓地にどの範囲の人を埋葬できるかについて、法律上の制限はなく、むしろ、墓地の管理者は、正当な理由がなければ埋葬を拒めないとしているのです。
2000年に発行された厚生労働省の「墓地使用に関する標準契約約款」は、「使用者は、経営者に届け出て、墓所内に使用者の親族及び縁故者の焼骨を埋蔵することができる」とした上で、「埋蔵できる対象者の範囲については、使用者の親族及び縁故者としているが、個々の墓地によって別の定め方をすることも可能であろう。ただし、その範囲を著しく制限するような規定は不適切である」と解説しています。ここでも、同姓であることが同じ墓地に埋葬される条件とはされていません。
このような中で、お寺や公営または民営の霊園などの墓地管理者の多くは、埋葬者の範囲をそれぞれの利用規約として定めています。その定め方は様々ですが、上記のとおり埋葬者の範囲について法律上の制限はありませんので、墓石に「○○家の墓」と刻字してあっても、同姓か別姓かにかかわらず、血縁の有無にかかわらず、墓地管理者の承諾があれば、問題なく同じお墓に入れるようになっています。
葬儀や法事などを代表して行う祖先の「祭祀(さいし)を主宰する人」についても、同姓であることは条件となっていません。
【疑問12】選択的夫婦別姓制度を認めるなら、一夫多妻制や近親婚も認めることになりませんか。
選択的夫婦別姓制度の導入と、一夫多妻制や近親婚は全く関係ありません。
一夫多妻は「重婚の禁止」として民法で禁じられ、近親者との婚姻についても直系血族または3親等内の傍系血族との間の婚姻を民法は禁じています。これらは、倫理的な観点などから定められたもので、婚姻についての合理的な制約と理解されています。ただし、近親婚については、日本国内でも地域による古くからの慣習の違いがあり、これを禁じる範囲について広すぎるのではないかといった異論はあるところです。
しかし、これらの問題と選択的夫婦別姓制度は全く別問題です。選択的夫婦別姓を認めたら一夫多妻制や近親婚も認めることになるというのは、著しい論理の飛躍です。
◆次の疑問は、近日公開予定。
【子育て世代の疑問に答えます】
9月の自民党総裁選で争点の一つになった「選択的夫婦別姓」。夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度です。夫婦同姓を法律で義務づけているのは世界でも日本だけで、晩婚化やグローバル化、IT化など時代の変化に伴い、さまざまな不都合が生じています。そして、その不都合を感じているのは、ほとんどが女性。男性の議員や経営者、裁判官らに訴えても理解を得にくい問題でもあります。
最近よく耳にするようになったけれど、詳しい内容が分からず、「今までと違うのは、なんとなく不安」という人もいるでしょう。衆院選を前に、子育て世代にも身近な疑問を、別姓訴訟弁護団にかかわる弁護士、榊原富士子さんと寺原真希子さんの著書「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」(恒春閣)を基に解き明かします。
⑦同姓でないと同じお墓に入れない? 一夫多妻制を認めることになる?(このページ)
選択的夫婦別姓とは
夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度。1996年、法相の諮問機関「法制審議会」が導入を盛り込んだ民法改正法案要綱を答申したが、自民党保守派から「家族の絆が壊れる」といった反対意見が強く、国会に上程されないまま30年近くの年月が流れた。以前は別姓を認めていなかった国も男女平等などの観点から制度を是正する中、日本は別姓を選べない唯一の国として取り残されている。2023年に婚姻した夫婦のうち94.5%が夫の姓を選択した。
別姓を認めない日本に対し、国連女性差別撤廃委員会は再三の改善勧告をしている。日本は、旧姓を通称使用する独自の政策を推進しているが、グローバル経済の中、二つの名前を使い分けるローカルルールとして混乱のもとにもなっている。多様性や公平性なども含めて課題に対応する「DEI」の観点から、経団連は24年6月、選択的夫婦別姓の早期実現を政府に求める提言を発表した。
著者の紹介
◇寺原真希子(左) 東京大法学部卒業後、司法試験に合格。長島・大野・常松法律事務所など東京都内の事務所で勤務後、米ニューヨーク大ロースクールに留学しニューヨーク州弁護士資格を取得。帰国後、旧メリルリンチ日本証券での企業内弁護士を経て現在、東京表参道法律会計事務所の共同代表。2011年に選択的夫婦別姓訴訟弁護団に加わり、22年から弁護団長。
◇榊原富士子(右) 京都大法学部卒業後、1981年から弁護士。婚外子相続分差別訴訟、子どもの住民票や戸籍の続柄差別違憲訴訟などを担当。離婚と子どもに関するケースを多く扱う。2009~14年、早稲田大大学院法務研究科教授。2011~22年、選択的夫婦別姓訴訟弁護団長を務めた。