選択的夫婦別姓、経済界に広がる賛意 「政府が推進する旧姓の通称使用には限界がある」 大和証券グループ副社長に聞く

( 2024年3月5日付 東京新聞朝刊に加筆)
 結婚後に夫婦のどちらかに改姓を強いる唯一の国である日本では、夫婦同姓制度の下で独自の「旧姓の通称使用」拡大を続けてきた。しかし、働き方や金融機関の手続きの上で煩雑さを招くことも多いため、経済界で別姓も選べる制度の導入に賛意の動きが出ている。経済同友会副代表幹事で、「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」の共同呼びかけ人でもある大和証券グループ本社の田代桂子執行役副社長に選択的夫婦別姓制度導入の必要性を聞いた。
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選択的夫婦別姓制度の必要性について話す大和証券グループ本社の田代桂子副社長=東京都千代田区で

強制でなくオプションを増やすもの

 「有志の会」は2021年に発足。共同呼びかけ人に名を連ねた理由について、田代氏は「結婚、離婚などで姓が変わり不便な思いをしている方を多く見てきた。選択的夫婦別姓は、誰かに何かを強制するわけではなく、シンプルにオプションを増やすもの」と話す。

 女性の社会進出や晩婚化に伴い、結婚後も生来の姓の使用を希望する人は少なくなく、政府は旧姓の通称使用を推進してきた。

銀行の3割が旧姓の口座開設に未対応

 ところが、内閣府と金融庁の2022年の調査では銀行の約3割、信用金庫の約4割が「マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与を防ぐうえで懸念がある」などとして旧姓による口座開設などに未対応。

 証券会社もほとんど旧姓名義の口座開設に対応していない。田代氏は「システム上、戸籍姓とリンクする項目が多い」と言い、証券会社から預けられた投資家の株式などを集中保管する「証券保管振替機構」(ほふり)を介した株主名簿管理や、税務署による所得の把握を目的とした「名寄せ」などで戸籍名が必須であることを挙げる。

無駄な時間やコストの節約にもなる

 「1社だけがシステム改修をしても別の会社がしていなければ、証券会社をまたぐ残高移管などで追加的な手間が発生してしまう」と指摘。ほぼ全ての金融機関が金融庁の調査に対し、システム改修に相当の期間やコストがかかると答えており、政府の推進する旧姓の通称使用は限界がある。

 別姓が選べれば、消費者側も非生産的な手続きやストレスがなくなる。「男性側が改姓している場合もあり、選択的夫婦別姓は女性だけのためのオプションではない。実現すれば、無駄な時間やコストの節約にもなる」と強調した。

田代桂子(たしろ・けいこ)

 男女雇用機会均等法が施行された1986年、大和証券入社。海外部門、企画部門での経験が長く、2019年から現職。金融審議会専門委員などの公職も多い。

夫婦別姓を望む人にはこんな理由も 結婚で読み方が同じ「同姓同名」になり混乱

 「結婚前は『結婚するとおもしろいね』と軽く考えていましたが…」。選択的夫婦別姓を待ち望む人たちの中には、結婚で同姓同名となり、日常生活や仕事面で不都合が生じている夫婦もいる。

病院、投票、航空券…「どっち?」

 東京都文京区の40代夫婦は15年前に結婚後、名前の漢字は違うが、読み方は同じの「同姓同名」になった。銀行や病院で名前を呼ばれる時、どちらか分からない。投票に行った際、受け付けの職員に「もう(投票用紙を)お渡ししましたよ」と言われたこともある。

 アルファベットと片仮名表記が全く同じになり、クレジットカードや航空券などはどちらの物か分からないなど混乱の元にも。ネット銀行で送金した時は、どちらが送金側かすぐに判断がつかない。

ジェンダーレスな名前も多いので

 お互い1級建築士として若い時から仕事を続けており、数年前からは夫婦で事務所を切り盛りする。

 「職業上、資格証が必要。名前を変えることに抵抗感があり、選択的夫婦別姓の導入を待っていたが、制度は変わらなかった」と妻。「最近はジェンダーレスの名前が多く、私たちのように同姓同名になる結婚は増えるのでは」と話す。夫も「妻に名字を変えてもらって申し訳ない。事務的なトラブルになる可能性もあるので、早く制度を改正してほしい」と訴える。

大和証券グループは女性役員の比率向上に本腰

 大和証券グループは、女性社員の割合が全体の4割以上。2011年度からは新卒採用に占める女性採用比率を安定的に50%とすることを目標に掲げている。

 「証券業務は体力勝負ではなくアイデア勝負。男女問わず活躍できる場は多くあり、現場感覚で課題解決を見いだせるよう部署ごとの話しやすい場を作っている」と田代氏。2013年からは育児休業中の社員も昇格できるよう人事制度を改革。2022年には育休制度を拡充し、男性社員の2週間以上の育休取得を必須とした。

 大和証券グループ本社における女性取締役比率は35.7%。昨年公表された政府「女性版骨太方針」の「女性役員の比率を30%以上」という目標を既に上回る一方、最大母体である大和証券単体では未達のため、部長や課長ポストへの登用に本腰を入れて取り組んでいるという。

 田代氏は「時間当たりの生産性や部下の育成力など、さまざまな評価軸を取り入れ、従来の登用基準から見直している」と説明した。

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  • 匿名 says:

    選択式夫婦別姓が認められないのは世界中で日本のみ。

    女性の労働が当たり前の時代に、責任ある立場で仕事のキャリアを積んできた女性達が、女性のみに夫の姓への変更を強いられる(95%)事への痛み苦しみを理解せず、未だ法改正がされない日本という国に苛立ちを禁じ得ません。

    非婚化、少子化を小手先の給付金だけで解決しようとする岸田政権の中に、この視点から解決策を探る慧眼を持つスタッフはいないのでしょうか。

    男性目線で政策を決定しようとしているから、国民の半数を占める女性の【子供を産まない、結婚を躊躇する】現実に的外れな政策を押し付け、国民の税金を無駄にしている。

    さらに地方では、長男長女が大多数である中、姓を変えなければならないことで結婚が出来なくなったり、墓じまいを余儀なくされる等、語るも涙の現実を日常的に聞く。

    経団連も提言している今、日本弁護士会の会長が4月から選択式夫婦別姓を推す女性に代わる今、一刻も早く法改正をお願いしたいです。

    世界基準になれない日本国を牛耳っているのは、一体どこの権力なのでしょうか。

     女性 60代
  • UMI says:

    夫婦同姓同名もそうだし、改姓によって義理の親族と同姓同名になったり、有名人や凶悪犯罪者と同姓同名になってしまうケースもある。読み方がおかしくなったり、実際にそれで結婚や交際自体を断念するケースもあります。別姓という選択肢があれば助かる人が増えるだけなのに。

    UMI 男性 50代

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