コロナワクチン5~11歳も「努力義務」に 国が子どもへの接種を推進 重症化防ぐが同調圧力や強制に懸念

井上峻輔 (2022年8月20日付 東京新聞朝刊)

11歳の子どもに新型コロナワクチンを接種する加藤医師(左)=加須市の加藤こどもクリニックで

 新型コロナウイルスの流行「第七波」を受け、厚生労働省の分科会がワクチン接種への協力を求める「努力義務」を、対象外だった5~11歳にも適用する方針を了承するなど、子どもへの接種を推進する姿勢を示している。9月にも適用される見通しで、接種により重症化予防が期待されるものの、感染を防ぐ効果は限定的。努力義務で同調圧力がかかり、事実上の強制と受け取られかねない懸念もある。

厚労省分科会委員「無理やりという意味ではない」

 努力義務は予防接種法上の規定で、対象者が16歳未満の場合は保護者に「受けさせるため必要な措置を講ずるよう努めなければならない」としているが、新型コロナのワクチンに関しては5~11歳は対象外だった。適用されても義務とは異なり、罰則もないが、より強く接種を推奨することになる。

 厚労省分科会委員で日本医師会の釜萢敏(かまやちさとし)常任理事は「あくまで保護者や本人が納得し希望した場合に接種につながるのであって、無理やりという意味では全くない」と強調する。

 努力義務の対象外だった5~11歳は接種率が低迷し、子どもの感染は拡大している。10代以下の新規感染者数は全体の3割程度を占め、増加している。2月に始まった5~11歳のワクチンの2回接種率は17%にとどまり、他の年代が7~9割以上であるのと比べ圧倒的に低い。

熱性けいれんや脳症の事例も

 接種が進まない理由について、日本小児科学会理事で、新潟大の斎藤昭彦教授は「5~11歳は軽症や無症状なので大丈夫との考えが広がっていた」と分析する。子どもの感染増に伴って、熱性けいれんや脳症といった重症例が増えており「少しでも接種率を高めたい」と訴える。

 子どもへのワクチンの有効性や安全性を示すデータが蓄積され、日本小児科学会も「5~17歳の小児にワクチン接種を推奨する」と新たな見解を公表。重症化予防のメリットが、副反応などのデメリットを上回ると判断したとしている。政府内からは「子どもへの接種拡大で、今の一番の感染拡大原因である家庭内感染が抑えられる」(首相周辺)との声が上がる。

感染予防効果は3割とのデータも

 ただ、5~11歳への接種による入院予防効果が八割ある一方、感染予防効果は3割程度にとどまるという海外のデータもある。長崎大の森内浩幸教授(小児科)は「ワクチンは重症化を防ぐ効果があり、子どもに接種を推奨したい。だが、努力義務は感染予防効果の高いワクチンに課すべきで、今のワクチンに課すのはおかしい」と話す。

 努力義務となることで、子どもへの接種を求める世論の圧力が強まる可能性もある。19日の衆院厚労委員会では立憲民主党の阿部知子氏が「接種に前のめりになるのではなく、診療体制の充実をお願いしたい」と指摘。加藤勝信厚労相は「努力義務の趣旨を含めて丁寧に説明していくと同時に、小児医療体制に万全を期していきたい」と応じた。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年8月20日