子ども同士の性暴力を防ぐには? 3歳からの性教育 自分を守るため、「うっかり加害者」にならないために

長田真由美 (2021年8月27日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
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岐阜県可児市こども健康部が取り組む「いのちのふれ愛教育」

 子どもへの性暴力というと、大人が幼い男児や女児に対してふるうイメージが強いだろう。しかし、実は加害者、被害者とも同じ年頃の子どもというケースも多い。幼児の場合、悪気はなく、やっていいこと、悪いことの区別がついていないことがある。子どもを性暴力から守るにはどうしたらいいのか。

5歳の娘が「クラスの子に触られた」 

 今年7月、名古屋市近郊に住む男性(35)が、長女(5つ)と湯船につかって話していた時のことだ。胸やおしり、性器など水着で隠れる部分を順に示しながら「大事な場所だから他の人に触らせたらだめだよ」と告げると、長女が打ち明けた。「同じクラスの男の子に触られたことがある」

 その1週間前、保育園で給食を片付けている最中、服の上から性器を触られたのだという。口に出すことができて安心したのだろう。以降、「怖かった、嫌だった」と泣いて登園を嫌がるようになり、結局、転園を決めた。男性は「起きたことは仕方がないが、園には今後どうするかを示してほしかった」と憤る。園を所管する行政側は「重く受け止めている。いつから、どのような性教育が必要かも含め、園や保護者に情報を発信したい」とする。

YouTubeの関連動画から影響が…

 国などの統計はないが、全国で親子向けに「とにかく明るい性教育 パンツの教室」を開くのじまなみさん(40)によると「未就学児など同じ年頃同士の性トラブルに関する相談はとても多い」。背景の一つには、動画投稿サイトYouTubeがあると言う。

 例えばアニメを見ている最中に、関連動画として性的な要素を含んだコンテンツが出てくるケースだ。意味が分からずに開き「キスする」「胸を触る」などの内容を見て「こういうことをしていいんだ」「楽しそう」「やってみよう」と考えてしまう。危ない動画を見られなくする機能もあるが「子どもが被害者や加害者になるのを防ぐには、教育が必要」と力を込める。

「水着ゾーン」は大事、と伝えよう

 「性教育は、3歳から可能」とのじまさんは話す。男女の体は違うと分かり、親や保育士ら大人とも意思疎通ができる。幼児でも理解できるよう、のじまさんは水着で隠れる部分と口、胸を合わせて「水着ゾーン」と呼んで広めている。「水着ゾーンは、人に見せても、触らせてもいけない自分だけの大事な場所」と伝えることが必要。その上で、そこは「他の人にとっても大事」としっかり知らせてほしいという。

図解 性被害から子どもを守るために

 人と人には心地よい距離感があると子どもが実感できるよう、「自分が好きだからと相手にチューしてもいいのかな?」など具体例を出すと伝わりやすい。

 「こうしたルールやマナーを知らないと、『うっかり加害者』になることがある」とのじまさんは訴える。「性について伝えるときは『逃げない、怒らない、ごまかさない』を心掛けてほしい」

文科省が4月から「生命の安全教育」幼児も対象 声を上げて逃げる練習も

 子どもが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないように―。文部科学省と内閣府は4月から、小中学校などで段階的に「生命(いのち)の安全教育」を始めた。幼児以降の子どもが対象だ。

 それに先駆け、岐阜県可児(かに)市こども健康部は2年前から、年少~年長の子どもに向け、「いのちのふれ愛教育」に取り組んでいる。臨床心理士や助産師、精神保健福祉士が幼稚園や保育園に出向き、発達に応じて15~30分実施。コロナ禍でも2020年度は約800人が参加した。

 男女の体を描いたパネルの大事な部分を水着の絵で隠し「興味本位で触らないで」と呼び掛ける。触られそうになったら「嫌だ、やめて」と声を上げて逃げる練習も。大人の真剣な様子に触れると、子どもも次第に一生懸命になるという。臨床心理士の鬼頭拡美さんは「大切な場所があることが分かると、嫌なタッチにも気付く。性教育は自分を守るための大切な話で、隠さず正しい知識を伝えたい」と話す。

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