性教育「思春期から」はハードルが高い 10歳までにこれだけは伝えておこう 産婦人科医・高橋幸子さんインタビュー

写真 『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』の表紙

 子どもたちへの性教育に長年取り組む産婦人科医高橋幸子さん(45)=埼玉医科大医療人育成支援センター・地域医学推進センター助教=が『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』(リトルモア、税込み1430円)を出版した。全国の小、中、高校で性教育の講演を行う高橋さんがこの本の読者として想定するのは、小学校高学年の思春期の入り口にいる子どもたちとその親たち。小学4年生の次男に「そろそろ…」と焦り気味の東京すくすく編集長・小林由比が、サッコ先生に家庭での性教育のヒントを聞いた。

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小4は「聞きたい!」と目をキラキラ

―本に登場してサッコ先生に質問したり、一緒に考えたりするのは小学4年生の女の子・ここちゃんと、男の子・からくん。なぜ4年生なんでしょう。

 私はもともと中学校や高校で性教育をしていましたが、10年前から小学校でも話をするようになりました。10歳になる4年生ではそれまでの成長を振り返ったり、将来の夢を話したりする「2分の1成人式」のような行事がある学校が多く、そのタイミングで性の話を伝えてほしいという依頼が多いです。

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産婦人科医の高橋幸子さん

 「どうしておへそがあるんだろう」というところから始めて、最後に私の出産の際のビデオを見てもらう、という流れ。10歳の子たちにはこうやって話せば理解してもらえる、という手応えがあるので、本にも講演で伝えてきた内容を盛り込んでいます。

 中高生と比べると、小学4年生は本当に「聞きたい!」という感じ。目をキラキラさせて楽しそうに聞いてくれます。私にとって小学生にお話しする時間はご褒美のような時間です。学校によっては理科で「人の誕生」を習う5年生や、最高学年の6年生に向けて話すこともあります。6年生はやはり4年生とは反応が全然違います。何人かでニヤニヤして「今日アノ話だってよ」みたいな感じだったり、逆に緊張してカチコチになっている子もいたり(笑)。

親が一度読んでから手渡してほしい

―なるほど、それで4年生なんですね。うちの息子も先日、「なんかね、今日学校で聞いたんだけど、赤ちゃんってお父さんの体の中にある、何万とかすごい数の中から一つだけ選ばれて赤ちゃんになって生まれたんだって。俺ってすごくない?」と言ってきました。精子と卵子の名称もおぼつかない様子でしたが、「おお、きたきた」と思いました。でも、そこからうまく話をつなげられませんでした。

 4年生の保健体育で初経と精通を習うんですよね。そこで精子と卵子が出てくる。性教育って、どうしたらいいのかなとどうしても身構えちゃいますが、そういうときにこの本ですよ!(笑)。もちろん親子一緒に読んでも楽しいと思いますが、中に「精通や初経のことを聞いてみよう」とか「生理用ナプキンの実験をしてみよう」などの「ミッション」を盛り込んでいるので、親が先に読んだ上で子どもに手渡し、こういう質問がくるかもしれないな、と準備することもできます。


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 本の中で子どもたちには「大人のいないところで、ひとりでじっくり、好きなように読んでみてね」と伝えていますが、手渡すのはやはり身近な大人。本をいつ渡せばいいかな、と見計らっていないとチャンスを逃してしまいます。息子さんのような質問をしてきたときがそのチャンスかもしれませんね。

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『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』より

―もっと小さい時期からでも性教育ってできるんでしょうか。

 性教育はいきなりセックスやマスターベーションの話をすることではありません。まずは自分の体を知り、自分を好きになることがスタートです。世界の性教育の標準が書かれているユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では5歳から始まっています。

 カナダの看護師で性教育の第一人者であるメグ・ヒックリングさんの本の中には、「赤ちゃんってどうやってできるの?」という問いは、2、3歳でも聞いてきますよと書かれています。今は中学生になった私の息子もいつ聞いてくるかな、と思っていたら、7歳のときに「ママ~、赤ちゃんってどうやってできる~?」と聞いてきました。「きた!」と思い、いつも使っているフレーズを伝えました。「男性の体の中には赤ちゃんのもとが半分あって、女性の体の中にも赤ちゃんのもとが半分あって、男性が持っている赤ちゃんのもとを男性のペニスを使って女性の膣(ちつ)の中に届けてあげると、女性のおなかの中で赤ちゃんのもとともとが一緒になって、赤ちゃんになって、それが大きく育ったら、おなかがギューギューってなって生まれてくるんだよ」

 それを聞いて息子は「うん、わかった」とすぐ次の遊びにいっちゃった。さらっとでいいんです、子どもは「ああ分かった」で終了。それで十分なのです。

図解 年齢に応じた性教育で伝えたいこと

プライベートゾーンの意識がSOSに

―そのフレーズなら、言えそうな気がします。小さいころから伝えてあげるべきこととしては、プライベートゾーンのお話もしていますね。

 プライベートゾーンは、「水着でかくれるところ+くちびる」と伝えています。とっても大切な場所で、あなた以外の人に勝手に触らせてはいけない、パンツの中、水着の中は勝手に見ることも許されないし、「見せて」「触らせて」と言ってくる人がいたら「いやだ」「NO」と言っていいんだよ、ということは2歳くらいから理解できると思います。繰り返し伝えてほしいです。

 ここ数年、このプライベートゾーンについて伝えることが、子どもを性被害から守ることにつながる、ということが、保護者の中にもずいぶん浸透してきました。私は思春期外来というところで性被害に遭った子どもの診察をしていますが、受診する子の年齢が低くなってきています。その背景には、「プライベートゾーンを見られたり触られたりすることは、おかしいことなんだ」と子どもたちが気付けるようになってきていることがあるのではないかと思っています。

 たとえば、20歳の兄からパンツに手を入れられそうになったと母親に訴えた7歳の女の子は、プライベートゾーンのことを習っていました。ですが、同じように兄からの被害に遭っていた10歳の姉は、私の診察室で「初めて聞いた」と。妹の被害に気づいた母親が確認するまで、被害が明るみに出ることはありませんでした。一度でも聞いておくことが、周りにSOSを出せる力になるんだと確信しました。

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産婦人科医の高橋幸子さん

―私は、息子が精子と卵子の話を聞いた後に「俺ってすごい」とうれしそうに言うのを聞き、学校の先生がとてもいい伝え方をしてくれたのだな、と温かい気持ちになりました。親からの性教育も必要かもしれませんが、それができない家庭もありますし、やはり学校で大切なことは伝えておくべきではないでしょうか。

 そうなんですよね。小学校の学習指導要領では、5年生の理科で「人は、母体内で成長して生まれること」を教えますが「受精に至る過程は取り扱わない」という歯止め規定があります。中学校の指導要領でも、3年生の保健体育で性感染症予防としてコンドームについて教えることになっていますが、「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わない」とあり、セックスを教えずにコンドームについて伝えなくてはならないという事態になっています。

 ただ、現場の先生たちの中には「義務教育のうちに一度は伝えておかなくては」という危機感もあり、私のような外部の講師を呼んで、学習指導要領を超えた部分を伝えようという動きが広がっているのです。私の勤務先の地元である埼玉県内ではその動きが活発ですし、東京都でもすべての中学校で産婦人科医などを招いた授業をすることになりましたね。2018年に東京都のモデル授業で中学3年生向けに避妊と中絶の話をしましたが、性感染症について学ぶ3コマの授業のうち、2コマをすでに先生が終えていてくれて、性に関する話をする時間だと理解されている状況だったので、スムーズに進めることができました。

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『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』から

「うちは話していいんだ」の安心感を

―インターネットなどでゆがんだ性の知識を取り込む前に、身近な大人が正しい知識を伝えることは大切ですね。中学生以降ともなれば、予期せぬ妊娠も起こりえます。

 思春期になってから、いきなり親から話すというのは相当ハードルが高いと思います。だからこそ、それより前の幼児期、児童期のところで、性に関する会話の積み重ねをしておいて、「うちはこういう話ができるんだ」と子どもが安心感を持てることが必要なのです。それができている家庭だったら、12歳以降の思春期にも親子で話せる可能性が出てくるでしょう。もし、学校での性教育の講演が保護者にも開かれているなら、ぜひ保護者の方にも話を聞いてほしいです。そして、その日のうちに少しでも講演の内容に絡めて、親子で会話してほしいな、と思います。

 段階的な性教育はとても大切です。ぜひ小学生親子の会話のきっかけとして、この本を活用してもらえたらと願っています。

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なるほど!

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グッときた

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もやもや...

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知りたい

すくすくボイス

  • ヤンママ says:

    私はニックネームの通り若くして母になり、苦しむことがたくさんありました。

    実際私は性教育をちゃんと受けてこれなかった側の人間で、中学校三年生で妊娠が発覚し、高校一年生の時に出産し、今は二児の母です。

    今でも当時の教育をおかしい、不適切だと思いました。そして当時の行動を悔やんでいます。

    妊娠が発覚したときに当時の男性の担任にこう言われました。「高校、大学へ行くのは諦めなさい。」この言葉が私の当時の教育を悔やむ一つの原因でした。

    性教育をきちんと受けていれば、高校、大学を諦めることもなかったでしょう。この事をきちんと知っていれば、とても危険な性行為をしようともしなかったのでしょう。

    私は今、十九歳のシングルマザーで実家ぐらしです。妊娠したことを彼に伝えるとこう言われました。

    「何で妊娠なんかしやがったんだ。妊娠したお前が悪いんだろ。俺は責任を持たないから。お前とは絶交だ。」

    その言葉は本当でした。彼とは今も一度も会話をかわさず、責任も持ってくれていません。

    だからこの私の子供にそういう夢を諦めるような経験をしてほしくないため、性教育を家で実践してみようと思いました。教え、ありがとうございました。

    ヤンママ 女性 10代
  • りんりん says:

    私は小学5年ですが、4年生の時に習いました。
    セックスなどは知らなかったが男子が下ねたなどを言っていたので知りました。
    いまいちよくわからないところもあるので中学生になったら教えてほしいと思います!

    りんりん 女性 10代
  • 匿名 says:

    この記事を見て思い出した。

    私が性行為について知ったのは小学校一年生くらいの時で、きっかけは当時中学生の兄が隠し持っていたHな本の数々だった。何せ隠し場所が私のベッドの下だったので(自分のベッドだと親に見つかると思ったのか……)。

    普通のエロ本がいくつかと、性行為の方法やリスク、性犯罪についてなどをまとめた知識が書かれてる本が一冊あって、正直当時の私にはかなり刺激が強い内容だった。

    ただ、それを読んでからしばらく経って、兄に性的ないたずらをされそうになったことがある。年の離れた兄で、小さい頃からよく泣かされていて、物理的にも精神的にも敵わない相手だったけど、「自分が何をされそうになっているか」理解できたから、とっさに蹴飛ばして全力で抵抗して逃げた。

    そして最初に抵抗したからか、同じことは二度とされなかった。兄の持っている本の中に妹と関係を持つ兄が登場するものがあったので、それを読んで興味本位で少し試してみようとしただけだったんだと思う。

    イタズラは記事に書かれているほど生々しいものではなかったが、でもあのときなんの知識もなく、わけがわからないままなんの抵抗も出来なかったら、エスカレートしたと思う。そして、もしかしたら被害は私だけでなく、他の誰かにまで及んだ可能性もある。

    私が性について知った過程は正しいものではなかったが、それでも知っていたから犯罪にまでは至らなかった。日本の性教育は少し慎重過ぎたと思う。保健の授業で初めてセックスやコンドームなどの単語が出たのは高校生の頃だった。中学生でも「避妊は大切」みたいな話はされたが具体的な内容はなく、同級生にはそういった行為をまだ知らない子までいた。

    家族がそういった知識に触れさせず、友達ともそういう話をする仲ではなかったような子が、何もわからないまま性被害に遭うかもしれない。正しい知識を得ないまま、ネットなどで偏った知識を得てしまい、性加害者になってしまうかもしれない。どちらの場合でも、それは本人のためにならない。そうなる前に正しい性教育は確実に必要だと改めて思う。

     女性 20代
  • にこー says:

    小さい頃から体のことについての本を読むことが好きで、赤ちゃんが生まれるまでの体の変化は小学校に入る前ではだいぶわかってはいた。生理や射精についても小3くらいには知ってはいたと思う。

    初めて赤ちゃんの作り方を知ったのが小4。ちょうど好きな人ができた時期で若干思春期に入り始めたかなと思い始めたぐらい。一瞬ドン引きしたけどまあ知って、良かったなと思う。

    まだ小学生だけど、ピルやコンドームの使い方など、小学生で生理が始まって赤ちゃんの産める体になる人も多いから、中学ほど詳しくはなくていいけど教えといた方はいいとは思った。

    にこー 女性 10代
  • 匿名 says:

    小学4年生の息子が、「友達がセックスって言ってたけど、セックスって何ー?」と聞いてきました。どう回答すべきでしょうか……

     女性 40代
  • ただの人 says:

    僕(女です)は小5のときに知って、なんか
    「自分だけが知ってるぅ〜!僕ってば天才🌟」
    ってなってましたw
    でもちょっと知らないことがあったのでちゃんとした知識を取り入れられて良かったです。

    ただの人 無回答 10代
  • ハスラー says:

    中学校では精通や月経を習うそうですが、自分は経験がそれよりも遅かったんです。
    授業を受けていてもすごく戸惑った記憶があります。さらっと紹介される程度では、そのあと数日の記憶。実際に体験しないとやはりイメージがわかないし、「へえ~」で終わってしまう。
    成長ペースも違って(私は割と遅かったのでは)考えれば考えるほど難しいですね。
    先日、「15歳男子の精通率は5割」という記事を見つけました。つまり中学校で習っても男子だけで半数の子はさっぱりわかってない。
    義務教育云々ではなく、家庭での教育や敢えてネットでの教育を取り入れていくことも大事なのではないでしょうか。
    学校で習っても仕方ないなら、近い大人が教えるしかない。
    特に男性の、父親の教育が必須。母親が男の子の性に触れるのはお互いに難しい。
    後はわたし含む性マイノリティへの教育ね。あれはもはや道徳の授業だと思う。人権の話だし。
    学校で教えないのにはいろいろ訳があるんでしょうけど、社会問題にもなっているんだから。
    そろそろ、大人の固定概念を壊さないといけないんじゃなかろーか。

    ハスラー その他 30代
  • おや says:

    もう中学3年生になるのですが…赤ちゃんの作り方を知らないそうで…これって教える必要があるのでしょうか?なんだか誤った知識を持っているようです。教えたほうがいい場合どのようにして教えたらいいでしょうか?

    おや 男性 10代
  • says:

    学校ではコンドームは習っても、セックスは習わない。ちゃんと家で教育しないと、ネットの情報をどんどん仕入れてきてしまう。

    真 その他 10代
  • 匿名 says:

    ネットを見ると、小学生高学年は性、異性に興味を持ち、体だけが成長し頭では騙されやすい単純な構造、今のネットで交流があるため、ついつい相手につらい時相談にのって言葉の信頼から、誘われて、だまされ、泣き寝入りが多い、携帯が悪いとは言わないが、どこかで子供を守るため、きちんとした道徳、性に対して、悪い例も入れて、いいのでは、解決ができないとき、きちんと対処できるように、伝えるべきでは。
    相手が大人や子供といえ、相手を傷つけることに罪悪感がなさすぎる、やはり、親がきちんと見ていてほしい、教育の場でもきちんと時間を取って、話し合って欲しい。今、大人の中に教育者が心無い行いをする、数は少ないが、新聞を見るたび残念である、つい教育者がきちんと、道徳を学んでないのかと思ったりする、これからはもっと学ばせる、知らせる、行動が必要である、難しいこともあるが、ネットや新聞を見るたびつらい。

      
  • 匿名 says:

    性の事件に関しまして被害者は勿論、加害児に関わる親の当事者への接し方なども大変気になります。
    最近は加害側の低年齢化も問題なのではと思っています。

      
  • 匿名 says:

    家族にはいろいろな形があることを伝えて欲しいです。
    典型的な家族だけでなく、母子家庭、父子家庭、お母さんが二人、お父さんが二人、養子縁組、卵子提供、祖父母家庭、継父継母家庭など、家族の形は全てが正解で、どれも素晴らしい家庭があることを伝えて欲しいです。

      
  • 匿名 says:

    特別養子縁組でむすこを授かった者です。まだ来月2歳になる幼い息子ですが、将来性教育をするに当たり、学校や世の中の「望まない妊娠」という言葉をどう彼が受け止めるのか、考えることがあります。
    息子には、事あるごとに「生まれて来てありがとう。産んでくれたママは、子供を授かる準備が出来ないお母さんの代わりに、君をお腹で育ててこの世界に産んでくれたんだよ。ママには本当に感謝しているよ」と伝えていますが、きっと一度は自分が「望まない妊娠」の末、生まれたのだ、と思うでしょう。
    「望まない」という、事実は変わりませんが、できるなら彼が初めて接する言葉がもう少し優しい、例えば「予定しない」や「準備や心構えのない」くらいの言葉であったら、受け止めやすいかもしれないな、と願う次第です。

      

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