市販薬のオーバードーズが若者の間で深刻化 せき止め、風邪薬…ネットで広がり依存症の危険も
ツイッターで「多幸感」投稿を見て
「将来への不安や寂しさから逃れたかった」。九州の高校に通う女子生徒(19)は先月下旬、初めてODをした時の理由を話す。
母親から精神的虐待を受けて育ち、現在は一人暮らし。その日は夕方からの約4時間で、せき止め薬28錠を摂取した。まず1回分の用量の3倍に当たる12錠、1時間後に8錠、さらに8錠を飲んだ。緊張がほぐれ、意識がもうろうとした。翌朝は学校へ行ったが「ODをしている間は何も考えなくて済むのがよかった」。薬はインターネットで買ったという。
きっかけは、ツイッターにあった「せき止め薬を飲むと、多幸感を得られる」などの投稿だ。「未成年だからお酒は駄目だし、覚醒剤などの違法薬物を使うと逮捕される。ODなら問題ないと思った」と言う。何でも相談できる高校の養護教諭には打ち明けたが「またやってしまうかもしれない」と不安は大きい。
せき止め薬に神経を興奮させる成分
厚生労働省の研究班は昨年9~10月、薬物関連の患者がいると回答した精神科医療施設232カ所、患者2733人を調査。全年代を見ると、患者が乱用した主な薬物は覚醒剤が最も多く、53.5%を占めた。ただ、10代の39人では市販薬が56.4%と最多。2014年の0%から増え続けている。
研究班の責任者を務める国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さん(54)によると、多いのは「dl-メチルエフェドリン塩酸塩」「ジヒドロコデインリン酸塩」という成分を含むせき止め薬の乱用だ。用法・用量を守れば問題ないが、メチルエフェドリンは神経を興奮させる作用があり、覚醒剤の原料にも。ジヒドロコデインは麻薬の成分だ。
どちらも脳の中枢神経に働き、依存性が高い。なかなかやめられないだけでなく、服用をやめると意欲をなくしたり、倦怠(けんたい)感に襲われたりと抑うつ状態に。内臓の負担も大きく、体に影響が出るリスクもある。
「乱用の恐れ」薬局販売は1人1箱
厚労省はメチルエフェドリンやジヒドロコデインなどの6成分を含む医薬品を「乱用の恐れがある薬」に指定。薬局で販売する際には、原則1人1箱とし、複数購入する場合は理由を尋ねるよう義務付けている。相手が中高生など若い場合は、氏名や年齢を確認することも定めている。
ただ、匿名性の高いネットでの購入はハードルが低い。加えて、ODを繰り返す人の投稿があふれるネットは、若者たちが「捕まらない薬物」として市販薬の情報を得る場になっているのが現状だ。
無理にやめさせようとするのは逆効果
松本さんによると、乱用に悩んでいるなら、まずは信頼できる友人や大人に相談することが大事。周囲が無理にやめさせようとするのは逆効果だ。どんな問題を抱えているのかをしっかり聞き、正直に話し合える関係を築いてから、精神科を受診するのが望ましい。
せき止めや風邪薬の中には、メチルエフェドリンやジヒドロコデインを使っていないものもある。「製薬会社は代替できるものは代替するよう検討を」と松本さんは言う。その上で「乱用の恐れがある医薬品はネット販売を禁じたり、内容量を減らしたりなどの対策も必要」と訴える。
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