企業主導型保育所の助成金詐欺 「これからは保育。絶対もうかる。100件以上つくる」容疑者は不動産業から参入

山田雄之、小野沢健太 (2019年7月24日付 東京新聞朝刊)
 内閣府の「企業主導型保育事業」の助成金約2億円をだまし取ったとして東京地検特捜部は23日、詐欺の疑いで、福岡市のコンサルタント会社「WINカンパニー」社長の川崎大資(だいし)容疑者(51)を再逮捕し、元社員の佐藤佑紀容疑者(29)=川崎市=を逮捕した。

川崎容疑者が提出したとされる虚偽の工事請負契約書と、事業の説明に使っていた資料=いずれも関係者提供(一部画像処理)

「別の現場の写真を誤って送った。偽造と言われれば…」

 助成金は保育所整備費の4分の3を目安に、工事の進展度合いなどに応じて段階的に支払われる。川崎容疑者は助成金を申請する際、工事が進んでいるように見せかけた虚偽の写真を添付したとされ、周囲に「別の現場の写真を誤って送った。偽造と言われれば偽造だ」と話していたという。

 逮捕容疑では2人は2017年11月、内閣府の委託で助成金の交付審査を担当する公益財団法人「児童育成協会」に、名古屋市中川区の「キッズランド法華西町」の整備を巡る虚偽の工事請負契約書を提出するなどして7800万円を詐取。18年3~8月には同様の手口で、福岡市中央区の「キッズランド天神」を舞台に約1億2900万円をだまし取ったとされる。

 いずれの保育所も昨年初めの開所予定だったが、完成に至っていない。

 特捜部は同日、名古屋市の別の保育所設置を巡り助成決定通知書を偽造し、横浜市の信用組合から融資金約1億1000万円をだまし取ったとして、川崎容疑者ら3人を詐欺などの罪で起訴した。

川崎容疑者の狙い「国と一緒に事業をやるようなもので、絶対もうかる」 

 安倍政権が待機児童対策の切り札と位置づける「企業主導型保育事業」に目を付け、助成金をだまし取ったとされる川崎大資容疑者。周囲には「国と一緒に事業をやるようなもので、絶対にもうかる。100件以上の保育所をつくってみせる」と豪語していたという。

出所後に名前を変えていた

 「これからの国の施策の要は保育になりそうだ。うまくやれば再起を図れる」

 安倍政権が企業主導型保育事業を導入する前年の2015年、東京都内の男性は川崎容疑者が熱心に話していたのを覚えている。

 「塩田大介」の名で不動産業を営んでいた川崎容疑者は09年、法人税法違反罪で執行猶予付き有罪判決を受け、13年には競売入札妨害罪で実刑になった。

 15年3月の出所後、注目したのが内閣府の助成金事業だった。名前を変えて保育業界に参入。「全国1万人の園児を笑顔に」「パパママと企業が欲しかった保育園を目指し突き進みます」とうたい、大都市圏の企業に設置を売り込んだ。

ずさんな審査につけ込んで

 だが、保育所の設計を依頼されたデザイン会社の幹部は、「保育への熱意は本当にあったのか」といぶかる。幼児がけがをしないよう角を丸くした机の設置を提案したところ、「費用がかさむ」と却下された。さらに助成金申請の際、「見積価格を実際の1.5倍にしてくれ」と水増しを頼まれ、関係を絶ったという。

 自民党の衆院議員の名前を出し、事業相手に「あいつを押さえているから大丈夫」と蜜月関係をにおわせることもあったという川崎容疑者。内閣府が委託した児童育成協会のずさんな審査態勢に付け込み、約30の保育事業に関わるまでになっていた。

 逮捕後は接見した関係者に「保育事業はもうできないだろう。不動産業に戻ろうかな」とこぼしているという。 

企業主導型保育所とは

 企業が従業員向けに設けた保育所や、保育事業者が設立して複数の企業が共同利用する保育所などを指す。幅広い企業が負担する「事業主拠出金」が財源。基準を満たせば開設費用の4分の3相当の助成金があり、運営でも認可保育所並みの助成金を受け取れる。都市部で定員20人のモデル例では、助成金額は開設工事だけで1億円強になる。2019年3月現在で全国に2597カ所あり、定員は計約6万人。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年7月24日