<記者の視点>増える非正規公務員 子どもの未来を育む保育士を大切にしないでいいのか
高い専門性に感銘 保育士に感謝
「もうオムツを取ってもいいかもしれません。トレーニングを始めましょうか」
長男が公立保育所の2歳児クラスに通っていたとき、担任保育士から、こう提案された体験をよく覚えている。
2歳児クラスはちょうどオムツが外れ自分でトイレに行けるようになる時期だ。この保育所も、2歳児の保育室内にトレーニング専用のトイレがあった。
担任保育士は、2歳児の成長過程をよく分かっていて、長男の様子を注意深く観察してくれていたのだろう。
しかも、トレーニングを始めるかどうか「本人の気持ちを確かめてみます」と言う。自分でできるか不安を感じるであろう長男の意思を尊重する姿勢にも感銘した。
成長とともに友だちとの人間関係から小さなけんかもする。夕方、長男を迎えに行くと別の保育士が原因や仲直りの経緯などを、成長過程の現在地も含めて細かく説明してくれた。的確に子どもの様子を把握し、年齢に応じた対応を取る姿に専門性の高さを強く感じた。多くの保育士たちに子育てを支えてもらった。とても感謝している。
低賃金で1年区切り 雇い止めの不安
今、非正規公務員の増加に危機を感じている。保育や小中学校などの教育分野も例外ではない。
総務省が2月に公表した調査では、2023年4月時点の非正規の地方公務員は約74万人、前回調査の2020年より約5万人増えた。職員の約4人に1人が非正規で、その多くが「会計年度任用職員」として正規職員とともに多くの職種で住民生活を支えている。
会計年度任用職員は、自治体ごとにバラバラだった非正規雇用制度を一本化、2020年度から導入されたが、待遇が改善されたわけではない。
問題は、低賃金の上に雇用期間が1年ごとに区切られ、「雇い止め」への不安に絶えずさらされる劣悪な就労環境に置かれていることだ。
保育所の保育士は一般事務職と並んで非正規採用数が多い。平均賃金は時給1219円で最低賃金平均額は上回るものの、専門職を尊重しているとは言い難い待遇だ。
民間より厳しい、待遇改善への制限
さらに非正規公務員の待遇改善は、民間と比べても厳しい状況に置かれている。公務員はスト権など権利が制限され、最低賃金など労働法令の保護も十分でないからだ。
保育や教育は子どもたちの未来を育む重要な仕事だが、それを担う人材が自分の将来に不安を抱えたままでは、子どもたちの未来を見据えた関わりができるはずがない。
公務員は雇用が安定した職業の代表と思われがちだが、非正規職員は「官製ワーキングプア」とも指摘される。
公務員が担う役割は公共そのものだ。公務員の増員にメディアは批判的だが、人材は大切な公共財だろう。問題の放置は、住民の暮らしを支える公務の基盤自体を蝕(むしば)む。待遇改善は不可欠だ。実現へ知恵を絞りたい。(鈴木穣=東京新聞論説委員、特定社会保険労務士)
コメント