「働く母親」の見えにくい実情 高卒女性が社会から冷遇されている インタビュー調査を行った藤田結子さんに聞く

(2023年3月8日付 東京新聞朝刊)
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明治大の藤田結子教授

 「女性活躍」や「イクメン」という言葉が社会に躍る一方で、大多数の「働く母親」が経験する仕事と育児・家事のジレンマは、正しく認識されていないのではないか-。多様な背景の母親たちへのインタビュー調査を昨秋、著書「働く母親と階層化」(勁草書房)にまとめた明治大の藤田結子教授は、そう指摘する。どういうことなのか、話を聞いた。

これまでの調査は高学歴層に偏り

 -どんな調査だったか。

 東京大の額賀美紗子教授とともに2016~2020年、保育園に子を通わせる母親55人に仕事や家庭生活についての詳しいインタビューをした。母親の仕事と育児・家事に関する研究は多くあるが量的調査が中心で、質的調査は少ない。また、対象が高学歴層や高所得層に偏る傾向がある。

 今回の調査の意義は、非大卒・非正規職なども含めた女性たちの語りを集めて内容を分析し、「女性が働きながら育児する」と一口に言っても多義的であることを明らかにした点だ。

仕事も家事も教育も担っているのに

 -非大卒層の実情とは。

 幼い子を育てながら働くために必要な資源や環境は、大卒女性に比べて圧倒的に不足していた。経済状況も悪い中、高卒の母親はパートでなるべく長く働こうとする人が少なくない。だが、夫が家事や育児を十分に分担しているケースはまれだった。妻が家事・育児をする間、夫がスマホゲームをしているという話がよく聞かれた。この傾向は非大卒層に限らない。総務省の調査でも、夫と妻の家事・育児関連時間の差はいまだに大きい。

グラフ 6歳未満の子を持つ夫・妻の家事関連時間の推移

 相対的に収入が低い非大卒の女性たちは、高収入の女性たちが使うベビーシッターや家事代行なども利用しにくい。仕事も家事も、習い事など子どもの教育も一手に担っている人たちなのに、社会の中で適切にケア、評価されていない。

夫側の「支配の志向」と収入格差

 -なぜ夫たちは家事・育児をしないのか。

 従来、夫の長時間労働が理由とされてきたが、調査では早めに帰宅してもやっていない人が何人もいた。父親への調査も必要だが、女性たちの語りから見えたのは、家事・育児は女性にやらせるという夫側の「支配の志向」だ。職場や実家などの影響で、家事や育児をしない方が「男らしい」といった意識を持ってしまっている人もいた。

 夫婦間の収入格差も理由の一つ。女性側も「夫と同じくらい稼ぐ」という意識がある人は少なく、育児のために自分が働き方をセーブし、夫がしっかり働けるよう支えた方が結果的に世帯収入が高くなる、と説明するケースが多かった。

「やりがい搾取」とハラスメント

 背景には女性自身が希望を持って働けない職場環境がある。今回の調査でも、低賃金での「やりがい搾取」やハラスメントなど、特に高卒女性の職場の厳しさが浮かんだ。仕事よりも報われる母親業にアイデンティティーを求める傾向が強くなるのではないか。変えていくには、女性が職場で公正に扱われ、将来的な見通しを持って稼ぎ続けられる制度と、ジェンダー平等意識の両方が必要だ。

 -女性活躍政策は浸透したようにも見える。

 男性中心社会で「使える」とされた女性たちが、男性並みに稼いだり社会的地位を得られるようになったりしているが、女性差別がなくなったわけではない。いまだに性別役割分担を押しつけられたまま働く女性が多い実態に目を向けるべきだ。子を持ち、母になることに必要以上に価値を置く風潮もまた、家庭内のケア労働などの軽視につながる恐れがある。「社会問題」として語るだけでなく、男性たちが個人レベルで家事や育児を実践することなしには解決しない問題だ。

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  • 残念無念 says:

    女性の家事育児は大変な労働です。まして仕事を持てば男性との分担がなければできません。
    私事ですが、妻に負担をかけて中途半端な仕事をさせて、大いに反省しています。
    当時より今の方が一般的に収入が増えず、共働きは必須の条件になっています。
    パートナーの男性として妻を助けるのは当たり前で、これが出来なければDVと同じです。
    男女とも学生時代に夫婦の姿や生活力(収入)について、日本人の置かれた社会を教え学ぶべきと感じました。

    残念無念 男性 70代以上

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