イクメンと呼ばれても…りゅうちぇるさん「ちょっと手伝っただけで褒められるのはおかしい」〈考える広場〉

大森雅弥、出田阿生、波多野智月 (2018年12月8日付 東京新聞朝刊)
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コラージュ・東茉里奈

 「イクメン」が流行語になるように、育児を妻任せにしない男性が増えてきた。とはいえ、母性への幻想は根強く、育児の負担はまだまだ女性に偏ったまま。ママたちの悲鳴はなくせるか。

タレント・りゅうちぇるさん「必要なのは夫婦のコミュニケーション」 

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 (息子の)リンクはもうすぐ5カ月です。夫婦で育児や家事の分担は決めていません。僕が疲れているときもあれば、(妻の)ぺこりんが疲れているときもある。決めると逆にストレスになります。できる人がやるっていうことにしました。男でも、おっぱいをあげること以外は全部できるので。

 さすが、イクメン・オブ・ザ・イヤー? 僕が特別だと思いません。男がちょっと育児や家事を手伝っただけで褒められるのはおかしい。だって2人の子どもなので。だから、イクメンの授賞式の日にツイッターに書いちゃいました。「イクメンという言葉が無くなるくらい パパも子育てに当たり前に向き合えて(中略)大切な子供を 夫婦で協力して話し合いながら育てていけるといいな」って。

 子どもができる前は、2人とも料理はしなくて出前ばかり。妊娠が分かった時から、食事などに気を付けるようになりました。調べれば調べるほど、やらなきゃいけないことが多くて、こんなに大変なんだと暗い、じゃなくてハッピーな気持ちになりました。そうしたら元気なリンクに会えるからって。

 生まれる前にたくさん準備したけど、経験しないと分からないことは多かったですね。夜泣きは3時間おきと聞いていましたが、リンクは1時間半おき。僕は赤ちゃんの声で起きられないパパでしたが(笑い)。

 実は、ぺこりんには「夜中起こしてね」と言ってあったんです。でも、ぺこりんは一人でやってくれた。「仕事に頑張ってくれてるから寝てほしい」って。ぺこりんはそういう性格だし、実際、「起きて、じゃあ、あなた何するの?」っていうこともあります。育児において何がパパの仕事かなんて決まってない。僕の話を聞いて「うちのパパにも、そういうことをしてほしい」ってなるのは、ちょっと違うと思うんです。いろんな形、ダイバーシティー(多様性)があっていい。

 育児に悩むママが多いのは悲しいですね。必要なのは夫婦2人のコミュニケーションだと思います。子育ては、ママが自分のことも幸せにしてやれるすてきな時間のはず。ママの中には家庭を守りたい人もいれば、仕事で頑張りたい人もいる。ママはこうしてほしいんだということを理解し、2人のルールを作って2人色の育て方をしてほしいな。

りゅうちぇる

 1995年生まれ。ファッションモデルの「ぺこ」さんと2016年に結婚。今年7月、長男が誕生。子育ての様子が話題になり、本年度のイクメン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。歌手としても活躍中。

 

ライター・堀越英美さん「社会全体が母の自己犠牲を美化している」

 ちょっと前に「あたし おかあさんだから」という曲がネットで炎上しました。母親になってから生活のすべてが子ども最優先になったという歌詞には、ヒール靴やネイルをやめ、夜中に遊ばずライブに行かなくなった、とあります。つまり女性が文明を享受できるのは出産前まで。その後は「自然・伝統・自己犠牲」の世界に入るわけです。

 なぜ母親だけが文明に毒されない「聖なる存在」であることを期待されるのか。今の日本は競争社会で、ありのままの自分が肯定される機会が少ない。学校や企業は個の尊重より、人間に優劣をつける場になりがちです。だから人々は自己肯定を求め、社会に出る前の幼少期の母子関係を理想化します。母の自己犠牲を美化する風潮は、社会全体が生みだしているのです。

 『不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』という本を執筆し、近代化以降の歴史を調べました。封建社会では、子が親に孝行する道徳観が一般的でしたが、大正時代になって「子どもには価値がある」との考え方が西洋から伝来した。子を育てる母の地位も上がり、母であることが女性の自己実現や社会参加に利用され始めました。さらに戦争中は、育てた子を国家に差し出す自己犠牲で母を神聖化する「母もの」がもてはやされ、人々に母性幻想を植え付けました。

 母の自己犠牲に限らず、日本では個を滅して全体に奉仕するべきだという価値観が戦前から続いています。正式教科になった小学校の道徳では、「お母さんのせいきゅう書」という教材が話題になりました。お手伝いの代金を請求する男の子に、母親は「ゼロ円」の請求書を渡す。「無償の愛で尽くす存在」としての母に感動することを、子どもたちは求められています。

 2分の1成人式や巨大組み体操、ブラック部活など、学校現場では「感動」の強要が息苦しさを生んでいます。学校の外でも、家族の助け合いを義務付ける自民党の憲法24条改正案や公権力が家族のあり方に介入しようとする家庭教育支援法案など、家族愛や絆という一見美しい言葉で個人を縛り付けようとする動きがみられます。息苦しい近代からの逃げ場として伝統社会で子どもに尽くす母親像を夢見るより、個人が互いに尊重し、自己肯定感を持ちやすい社会になればいいなと思います。

堀越英美(ほりこし・ひでみ)

 1973年、神奈川県生まれ。著書に『女の子は本当にピンクが好きなのか』、翻訳書にR・スワビー『世界と科学を変えた52人の女性たち』、ナタニア・バロン他『ギークマム』(共訳)など。

 

玉川大教授・大豆生田啓友さん「子育てを家庭だけで完結させないこと」

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 「ママを休みたい」。世の母親の悲鳴が聞こえてくるようです。実は、今ほど子育てを1人で頑張らないといけない時代はありません。江戸時代の文献を見ると、父親も積極的に子育てしていたことが分かる。そもそもヒトは群れで子育てをする動物で、今の時代こそ異質。戦後の成長政策として、男性が働き女性が家事をするのが効率的だったため、この形に落ち着いたのです。それでも昔は地域の支えがあり、家庭の外にも面倒を見てくれる人がいた。子どもは自由に外で遊べていたんです。今やそれも難しい。

 時代は変わり共働きが増える中で、仕事も育児も全て1人でやるのは無理があります。情報はインターネットで簡単に手に入りますが、多くの「理想の母親像」を目にすれば逆にプレッシャーになる。電車内も公園も人の目が厳しく、騒ぐと怒られる。これでは疲れますよね。

 では、彼女たちに誰に助けてほしいのか聞くと、真っ先に挙がるのは夫です。ある研究では、親が機嫌よくいられれば子どもの発達にプラスの効果があるといわれています。父親が育児に参加し、母親の機嫌がよくなれば、子どもにとってもよいのです。早くから子どもに関わることで絆が深まり、思春期の相談相手になれるなど父親自身にもメリットがあります。何からでもいい。サッカーが得意なら子どもとサッカーするとかそういうことから始めてもいい。

 1番大切なのは、夫婦の中で何ができるか話し合うことです。理想のイクメン像を押し付けあうのではなく、各家庭それぞれの父親像があっていい。これからは「家族する」とはどういうことかをもっと考えていかねばなりません。

 社会のサポートも必要です。国の政策として「子ども・子育て支援新制度」ができました。社会全体で子どもを育てる仕組みを作る制度で、社会保障の中に子育てが位置づけられています。重要なのは、子育てを家庭だけで完結させないという意識。多くの子育て先進国では、子どもを社会の中で育てる意識が強く、親は時に休んでリフレッシュできる。それで子どもに笑顔を向けられるなら、その方がずっと大切です。子どもにきちんと関わりつつ、自分の時間も持つ「まあまあなお母さん」でいることが、子育てを成功させる秘訣(ひけつ)ではないでしょうか。

大豆生田啓友(おおまめうだ・ひろとも)

 1965年、栃木県生まれ。専門は幼児教育学、保育学。NHK・Eテレ「すくすく子育て」に出演中。著書に『マメ先生が伝える幸せ子育てのコツ』など。

母性幻想とは

 母と子どものきずなを神聖視する見方。性別役割分業の当然視にもつながってきた。今年は、国会議員の「(赤ちゃんにはパパより)ママがいいに決まっている」という発言や、母親の負担を正当化するような「あたし おかあさんだから」という歌が問題に。母親たちは「あたし おかあさんだけど」と声を上げた。

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