新幹線のように!首を長く! 日本最速ランナー・山縣亮太さんに聞く「速く走るコツ」テクニック編〈アディショナルタイム〉
5m先のゴミを最初に拾いに行く感覚
山縣さんは7月20日まで東京新聞の「私の東京物語」に登場。子どもの頃の思い出から五輪の成功・失敗談まで、貴重な経験を語ってくれました。ただ、紙面の関係上、伝えきれないことも多かったのが心残り。ならばと、この場を借りて、紹介することにしました。
日本記録保持者の山縣さんに聞きたいことといえば、やはり、「どうしたら速く走れるのか」ではないでしょうか。山縣さんいわく、短距離走の秘訣は「意識を前に飛ばすこと」。どういうことでしょう。
「僕はよく『5メートル先のゴミを最初に拾いに行く感覚』と話すのですが、走るとき、体の内側に意識が向かないようにしているんですよ」
「走る哲学者」との異名を持つ山縣さん。難しい表現をすぐに補足してくれました。
「足をどう使うとか、腕をどのように振るとか、意識が体の中に向くと、(足が)止まってしまうんです。だから、意識を体の外に出してあげる。『誰よりも先に5メートル先のゴミを拾おう』と思えば、自然と体の外を意識して、低い姿勢で下を向いて走りますよね。それを僕は『意識を前に飛ばす』と言っています」
なるほど。ほかにも山縣さんには「3歩先の景色を想像する」との名言がありますが、数々の実戦を重ねたからこそのメッセージだと思います。
簡単に速く走れる「3つのポイント」
しかし、「意識を前に飛ばす」という説明は、幼稚園児や小学校低学年の子には少し難しいかもしれませんね。そんな人のために、わかりやすく説明した動画が所属先・セイコーホールディングスの特設サイトにありました。セイコーアスリート社員の山縣さんが「誰にでも簡単にできる走り方のコツ」と題して、3つのポイントを挙げています。
(1)新幹線のように走ろう
山縣さんによると、意外に多いのが、上下に跳ねて走っている人だそうです。せっかくの足の力が上に逃げてしまうのはもったいないので、上下の「縦」ではなく、「横」の移動を意識するのが肝要。そこで「新幹線になったつもりで、すーっと走ろう」と呼びかけています。
(2)最初の30mは下を向いて走ろう
スタートダッシュは短距離走で重要な要素。「そこで低く飛び出すとスピードに乗れるんです」。山縣さんはスタートと同時に顔や体が起き上がってしまい、失速してしまう人がいることを挙げ、「目線を下に下げることで、上体の浮き上がりを防ぐことができます」と言っています。
(3)首を長くして走ろう
緊張したり、レースに勝ちたいと思うと、肩がガチガチになってしまうもの。肩に力が入ると、どんなによいスタートを切っても失速してしまうとか。ガチガチを防ぐため、「肩を落として、首を長くして走ってみてください」と話しています。
「新幹線」や「首を長く」なら、小さな子どもでもできそうに思えるから不思議です。50メートル走でももっと短いかけっこでも基本は同じ。この走り方は、低い姿勢でスタートし、軸がぶれずに加速していく山縣さんの走りそのものです。興味のある方は下記の動画をご覧ください。より詳しく山縣さん自身が説明している様子を見ることができます。
引っ込み思案でした 転機は中学受験
山縣さんは広島で過ごした子ども時代のことも教えてくれました。
「引っ込み思案というんですか、人と同じじゃなきゃ嫌だという子どもでしたね。今でも強烈に覚えているのが、幼稚園を卒園するときのこと。学区の関係で僕だけ違う小学校に上がることになったんです。幼稚園の先生に、一人一人、行く小学校の名前を伝えるのですが、自分だけ違う小学校の名前を言うのが恥ずかしくて…。目立つのが苦手というか、とにかく、人と違うのが嫌だったことを覚えています」
そんな山縣さんを変えてくれたのがお父さんだったそう。「小学校を卒業するとき、中学受験を強く勧められて…。そのときはすごく嫌だったんですけど、今はすごく感謝しています。自分の知らない世界やコミュニティーに飛び込んでいくことは、後になって自分のプラスにつながるんだって」
背中を押してもらって感謝しているという山縣さんは、その後、一流アスリートとして世界に羽ばたいていきます。次回は日本新記録を出したメンタル面の秘密に迫ります。
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テクニック編に続き「メンタル編」では、けがや不調にどう向き合うか、「努力は報われるものなのか、それとも、報われないものなのか」をどう考えるか…などをじっくり語ります。
山縣亮太(やまがた・りょうた)
1992年広島生まれ。広島修道中-広島修道高-慶応大-セイコー。2012年ロンドン五輪出場。2016年リオ五輪では4×100メートルリレーの1走を務め、同種目初の銀メダルを獲得した。2021年には9秒95の日本新記録を樹立。同年の東京五輪では主将を務めた。
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