立会川でお立ち会い!「朝の給食」でご近所づきあい 毎週木曜、品川区のママ友が起業

市川千晴 (2019年11月15日付 東京新聞夕刊)
 ご近所で朝食を-。東京都品川区南大井の京急立会川駅前の商店街で、毎週木曜に開かれる「朝の給食」が人気を呼んでいる。区内の「ママ友」2人が運営し、焼きたてパンと飲み物を提供。出勤前のサラリーマンや親子連れ、シニアらが世代を超えて集う。「行ってらっしゃい」。朝食を共にし、送り出し合う人たちの間で「顔の見えるご近所づきあい」が始まっている。

家族のように一緒に朝食を楽しむ利用者

1回300円 親子連れ、会社員…20席すぐ満席に

 「おはようございます」。午前7時、親子スペース「Mother Nature’s Son(マザーネイチャーズサン)」に、女性が姿を見せた。300円を払い、近所のパン店の焼きたてクロワッサンとコーヒーを受け取り、テーブルに着く。その後も親子連れや男性が次々と訪れ、約20席があっという間に埋まった。

 店内では利用者同士で自然と会話が始まり、子どもの遊び相手になる会社員も。食事を終えたサラリーマンの男性が席を立つと、皆で「行ってらっしゃい」。男性は少し照れたような笑顔で、「行ってきます」と店を出た。その様子は大きな家族のようにも見える。

 誰でも利用できるが、商店街近くに住んだり、勤めたりしている人が多いという。この日が3回目の参加というシステムエンジニアの男性(28)も、品川区東大井で一人暮らし。「将来は得意の料理で店を開きたいので、地域で新しいつながりを作りたいと思った。子どもとの触れ合いも元気のもとになっている」と顔をほころばせた。

2児の母同士「緊急時に預けられるご近所がいたら」

 「朝の給食」を行っている向井理沙さん(31)と山川樹里さん(36)は、ともに5歳と2歳の2人の子どもがいる。区の出産に関するイベントを通じて知りあった。2人とも実家が遠くて両親の支援は難しく、仕事と子育てで「毎日が綱渡り」という同じ境遇にある。

 「下の子が夜中に熱を出して病院に行きたい時、上の子どもを気軽に預けられる知り合いが近所にいたら」。向井さんは以前よく、こんなことを思ったという。「地域の人同士がつながれる居場所を作ろう」と今年に入って会社を辞め、6月、山川さんと合同会社を起業し、7月から「朝の給食」を始めた。

「朝の給食」が人気の「マザーネイチャーズサン」=いずれも東京都品川区で

常連10人、新たな交流も 「心通わせる居場所に」

 人が集まるかとの心配をよそに、「会社に着くまでに誰かと話をして笑うという体験が新鮮」と評判が広がり、オープンから約2カ月で20~30代の独身者からシニア世代まで10人ほどの常連さんができた。10月には育休中のナレーターによる「声の出し方教室」が開催されるなど、ここでの出会いをきっかけにした交流も生まれている。

 そんな「ご近所さん」たちを見ながら、山川さんは思う。「東京は近所のつながりが薄く、どの世代も孤独を抱える人がいる。食欲のない朝も近所の人が集まって話すと、食事が取れ元気になれると発見した。1日の始まりを少しでも楽しくできれば」

 現在のスペースは間借りで調理場もないため、向井さんは将来的には一戸建てを借りたいという。「ほっと癒やされる居心地のよい場所を作りたい。一日のいつでも、みんなが心を通わせられるように」

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年11月15日