埼玉でSNSきっかけに誘拐 少女たちはなぜ見知らぬ男の家に? 信用してしまう背景にあるものは

森雅貴、浅野有紀 (2019年12月19日付 東京新聞朝刊)
 大阪市の小学6年の女児が栃木県で保護された誘拐事件は、会員制交流サイト(SNS)を介して知り合った見知らぬ男の犯行だった。埼玉でも、ツイッターで家出希望との趣旨の投稿をしたさいたま市と兵庫県の女子中学生2人が、本庄市の男の借家に住まわされていたことが発覚した。子どもたちはなぜ見知らぬ男を信用してしまったのか。背景を探った。

阪上被告が、女子中学生2人を住まわせていた借家=埼玉県本庄市で

「家出希望」でも親権者の同意なければ誘拐

 「埼玉においで。勉強するなら養ってあげる」。未成年者誘拐罪で17日に起訴された本庄市の不動産業阪上裕明被告(37)は、第三者が見ることができないツイッターのダイレクトメッセージで2人を誘い出していた。

 埼玉県警の調べでは、部屋や食事を与え、外出も携帯電話の使用も自由。保護された際、2人は不動産業の勉強をしていたという。しかし、未成年者誘拐罪は、未成年者本人の同意があっても親権者などの意思に反する場合は適用される。阪上被告は「将来、仕事を手伝わせるつもりだった」と供述し、誘拐の容疑を認めている。

SNS介した未成年被害、埼玉県内で倍増

 埼玉県警によると、昨年1年間の20歳未満の行方不明者の届け出は1486人に上り、増加傾向にある。

 SNSを通じて犯罪に巻き込まれる18歳未満の被害者も増えており、今年1~6月は109人で、昨年同期の48人から倍増。犯罪の内容は、児童ポルノや児童買春のほか、強制性交などもあった。

 SNSを介する被害が多いことについて、子どもとネット問題に詳しい千葉大の藤川大祐教授は「昔は、夜の街中などでつるんでいた非行少年が、今はネットで緩やかに知らない人とつながることで不安な気持ちを紛らわせている」と現状を説明する。

匿名のネットが本音を吐き出せる場所に

 最近ではツイッターで中高年の男性を誘い、食事やデートに付き合う代わりに金銭を受け取る「パパ活」も盛んで、犯罪の温床になる危険が高いとして、埼玉県警少年課は今年4月からツイッター上のパトロールを始めた。これまでに計253件の注意や補導をしたという。

 無料通信アプリのLINE(ライン)などで家出少女らの相談に乗るNPO法人「BONDプロジェクト」(東京)の橘ジュン代表(48)は、「周りの大人が信用できないからネットに投稿する」と指摘。家庭や学校での人間関係に悩む少女たちは、匿名で本音を吐き出せる場所をネット上に求め、大人から「話を聞くよ」と優しく声を掛けられやりとりするうち、知らない人という感覚が薄れていくのではないかという。

ツイッターには家出を望むつぶやきがあふれる

「SNSの相談窓口と、安全な逃げ場所が必要」

 BONDプロジェクトでは、6時間体制で少女らと同世代の相談員らが悩みごとに対応しているが、リアルタイムで応じるには限界があるとし、橘代表は「困った時に信用できる大人とつながり、話ができる仕組みを国レベルでつくるべきだ」と指摘する。

 さいたま市では昨年8月、ラインの相談窓口を試験導入。今年も来年の3月まで開設中で、常設にするか検討中としている。

 藤川教授は、メールや電話に慣れていない子どもにとってSNSの相談窓口があることは重要と評価。その上で「まずは子どもを苦しめる虐待やいじめを防ぐこと。そして、家出などしたくなった子どもたちについては、身を寄せられる安全な逃げ場所を作ることも重要」と対策をアドバイスしている。