コロナで家計悪化、今こそ子ども食堂が必要 でも集まって食事はできない… 苦境で生まれる新しい支援の形
コロナ禍で「配布」に切り替えたが
先月上旬、土曜日の昼下がり。埼玉県川口市内のカフェで「川口夕暮れ子供食堂」の弁当配布が始まると、子どもや保護者らが続々と会場を訪れた。ご飯とおかず、野菜がバランス良く入った手作り弁当に、カップ麺や食パン、サツマイモ…。バッグをぱんぱんにした子どもらの表情は明るい。
地域の子どもらに無償や安価で食事を振る舞う「子ども食堂」は、コロナ禍による家計悪化の影響でニーズが高まっている。ただ、感染防止のため大人数で集まって食べるのは難しく、弁当やレトルト食品などの配布に切り替えるケースも多い。「川口夕暮れ」もコロナ禍前は月2回、近所の子どもら30人ほどが集まって夕食をとっていたが、2020年4月からは食事会をやめ、月3、4回弁当などを配っている。
じっくり話す”居場所”がなくなった
「配布にしたことで一人一人とじっくり話すのは難しくなった」。「川口夕暮れ」の佐藤瑞恵代表(40)は変化を指摘する。一緒にテーブルを囲む食事には、おなかを満たすだけでなく、会話から子どもの悩みや家庭環境の変化に気付けるという側面もあった。食堂を訪れる子どもの中には貧困や虐待、孤食などの問題を抱え、家庭以外の居場所を求めているケースも少なくない。
子どもや保護者との信頼関係は、一朝一夕には築けない。つながりを途切れさせないよう、食堂スタッフたちは弁当の配布時に「髪形かっこよくなった」「お洋服かわいいね」と会話の糸口をつくったり、保護者と小まめに連絡をとるなど、繊細な対応を心がける。
一方、これまで出会えなかった人が
一方で思わぬ効果もあった。住まいが遠く食事会には参加できなかったが、弁当の受け取りならと会場を訪れる人もいる。そうした利用者の中にはコロナの影響で失業したり、収入が減って家計が苦しくなったひとり親家庭の親子もいる。
一回当たりに作る弁当は約70食と食事会より増えており、佐藤さんは「本当に支援を必要とする人に届けられるようになった」とニーズを実感。食事の提供量が増えるのに伴い、企業や近隣住民からの食材寄付も増え、「人のつながりの温かさを感じる」という。今年はさらに支援の手を広げようと、新たにキッチンカーを走らせる予定だ。
食事以外の取り組み 学習支援も
県内約140カ所の食堂が加入する「埼玉県子ども食堂ネットワーク」の本間香(かおり)代表(61)は「コロナ禍前と同じ状態には完全には戻れない」と考えている。新規感染者が減った昨秋以降、食事会を再開した食堂もあるが、参加人数を絞ったり、入れ替え制にしたりと制限は残る。
食事以外で子どもとじっくり向き合う機会をつくるため、本間さんが運営する「さいたま子ども食堂」(さいたま市緑区)では昨夏から学習支援を始めた。食堂のスタッフらが週3回、子どもの学校の宿題をサポート。元教員や学習塾の先生らがボランティアで教えることもある。他の子ども食堂でもダンスや俳句教室など、新たな取り組みが少しずつ広まっている。
コロナ禍が始まった20年春以降、埼玉県内では20カ所以上の子ども食堂が新たにできた。高校生や大学生らのボランティアの申し出も増えているという。
「大変な時だからこそ何かしたいという人はたくさんいる。みんなで頑張れば、子ども食堂は地域のコミュニティーの核になれる」と本間さん。難しい状況は続くが、模索の中で寄せられる多くの善意に希望も感じている。