新学期、学校だけが居場所じゃない 我孫子のミュージシャンが苦悩する子どもに曲 過去の自分はギターが支え

鈴木みのり (2022年8月29日付 東京新聞朝刊)

子どもからの手紙を読む悠々ホルンさん=23日、千葉県柏市で(鈴木みのり撮影)

 次々と届く子どもからの苦しみの声を、歌にし続けるシンガー・ソングライターがいる。千葉県我孫子市の悠々ホルンさん(35)。子どもの頃に不登校になり、自殺を2回試みた。夏休みが終わり、悩む子どもたちに「今の苦しみは一生は続かない。居場所は学校だけではない」と呼びかける。 

「居場所がない」と自分を追い詰めた10代

 2018年8月末、ある男子高校生が始業式前に自ら命を絶った。同級生からのいじめに苦しみ、ホルンさんの歌をよく聴いていたという。自殺後に届いた生徒の母親のメールで知らされた。母親は「なぜ学校に行かなくて良いと言わなかったのだろう」と、自責の念をつづった。

 自分なりに子どもに向き合ってきたつもりだが、踏みとどまらせられなかった。「このまま活動していいのか」。半年間、ホルンさんは自問自答した。

 両親から暴言を浴びながら育ったというホルンさんは少年時代、ストレスから慢性的な頭痛や腹痛に苦しんだ。「居場所がない」と自分を追い詰め、10代の時に2度、自殺を図った。

 生きる支えは、ギターで音楽をつくる時間。思い浮かぶ言葉を口ずさみ、弦をはじくと曲ができた。不登校だった高校時代、バンドを結成し、卒業後の10年にソロデビューした。

 ファンと交流するうち、親の暴力や学校での人間関係に悩む10代の声をよく聞いた。子どもの手紙やメールを受け付け、それをもとにつくった歌をユーチューブで公開するように。そんな時、男子生徒の自殺の知らせが届いた。

「助けて欲しいなんて誰にも言えなかった」

 「親には子どもの苦しみを知ってほしい。子どもには同じ思いの仲間がいると感じてほしい」。翌年、こう願いを込め、新曲「助けて欲しいなんて誰にも言えなかった」を公開した。

 平気そうな顔つくっているけど 本当はつらかった 逃げればいい相談すればいいと言われても それができない できないんだ

 ネットで「死にたい」と検索し、ホルンさんの曲にたどりつく子も多い。「リスカ(リストカット)してます」「生まれてこなければよかった」。寄せられた相談は8000件を超える。

 内閣府自殺対策白書によると、18歳以下の自殺者数は夏休み明けの9月1日前後が突出して多い。学校の再開で動揺が生じやすいことが原因とされる。

 ホルンさんは10代を振り返り、訴える。「生きるのが向いていないと思ってたけど、人生何があるか分からない。学校に行っても行かなくても、生きていれば失ったものを取り返せる可能性は残る。ゆっくり自分の道を探してほしい」

 夏休み明けのこの時期、NPO法人「フリースクール全国ネットワーク」などは9月9日まで、自殺防止キャンペーン「#学校ムリでもここあるよ」を実施し、子ども向けの相談窓口などを特設サイトで紹介。文部科学省や法務省も電話相談を受け付けている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年8月29日